うどん

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うどん。
饂飩。
小麦粉から作られる、白い麺。

私はうどんが好きだ。
家族もうどんが好きだ。
父はコシの強いものが好き。
母は柔らかいものが好き。
よく私にも作ってくれた。
ざるうどん、かけうどん、焼きうどん。

車で少し行ったところの坂の下にもうどん屋がある。
父と行った。祖父とも行った。祖母も、地元の友達も、遠方の叔母も、昔の彼氏も。
みんな知ってるうどん屋さん。

大学の学食で1番美味しいのもうどんだ。
わかめうどん、肉うどん、ゲソ天も一緒に付けて。

うどんを茹でると思い出す。
「ちゃんと沸騰してからうどんを入れるのよ」
母に教わった。
「麺を茹でる時はな、鍋の中で対流が起きるのがポイントなんだぞ」
なぜか理系ぶる父親。
「ちょいと、ざるで上げるのは熱くて危ないから、ばぁちゃんがやるよ」
祖母の優しさは時々甘すぎる。
「たまに来るんだよね、ここ。夜遅くまでやってるからさ」
昔付き合っていた彼はここの常連らしい。
「ねぇねぇ聞いて!私、TOEICのスコア上がったんだ!」
嬉しそうに話す彼女は私の憧れだ。
「俺、うどん茹でると餅になっちゃうんだけど……」
あの子がここまで料理が下手だとは、わたし思わなかったわ。

思い出せばキリがない。
家で食べるうどん。お店で食べるうどん。学食で食べるうどん。

あの子の家で食べるうどん。

23歳になった今。
ここには、あの子だけが居ない。
あの日からうどんの味を思い出せなくなった。
私はあの味を思い出すため、いまうどん職人をやっている。
「いらっしゃいませー!」

ここは、小さな小さなうどん屋さん。
丘の上にある、小さなうどん屋さん。
師匠に弟子入りしたのは、つい最近だ。
師匠はあの子の親戚だと言った。しかし、あの子の行方は知らないらしい。

この師匠の元にいれば、私もあのうどんの味が思い出せるのではないか、と思った。というのは少しフェイクでほんとはあの子の居場所への手がかりがつかめるかのではないかという下心に近い下心があったのはいうまでもない。
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