木曜日、午後10時6分、ハチ公改札にて

3人が参加
恋愛 女性

――――今日もハズレだわ。

斜めに削れたヒール、めくれた爪先、そろそろリペアに出そうかと考えて、早1ヶ月。
散々な目に遭った。何となく帰路に着く気が起きず、ここに立ち続けてそろそろ1時間経つが、ずっと残っているのは私だけだ。

スーツ、革ジャン、ドンキのビニール袋、マフラー、チェスターコート、スエードのブーツ、kate spadeの鞄――――

いつ訪れても、人が枯れない場所である。

……こんなにたくさんの人間がいるのに、何で私が惹かれるような相手が、1人も居ないわけ?
暗がりに浮かび上がる木々の色づいた葉が、通りの歩道の一区画を寂しげに埋める。
頭上の街灯は木々と人々の足許のみを照らし、さらに高いところまで伸びたビルたちを見上げている。
その下を、人だけが流れていく。人が枯れない空間で、枯れた葉ばかりが蹴散らされている。行き交う人々のコートのはためく横を落ちかけの葉が舞い、靡く。
葉は、空気の動きのみに流されていく。まるで社会に立ち向かうことがかなわない私のように。

忙しさに押し潰されるような毎日の中で、日々の倦怠感を忘れる為にひとり飲み、夜の渋谷を彷徨う。
寂しさの隙間を埋めるものはお酒じゃない。分かってる。
ただ立ち尽くす私の履くヒールの先に、一枚の葉が落ちてくる。
いや、もしかしたら随分と先から流されてきただけかもしれない。
......私と同じね。
凍てつく風に打たれて、全身を末期の色・・・真っ黄色に染め上げて、命の終わりを感じているのね。
でも私、あなたのようにここで終われないの。

人が恋しい。
心が躍るような相手を求めている。
心も体もボロボロにしてなお、新たな刺激を求めている。
欲張りなのかもしれない。
でもまだ、夢を持つことは許されていると思う。
美しい人生、限りない歓び、胸のときめき。
まだ見ぬ、いつか出会う誰かとのひとときに、思いを馳せている。

今日は、月が出ている。
月はやはりさまざまな思い出を想起させる。そして、憂鬱な思い出さえも美化していく。きっといまもいずれは良い思い出となるのだろうか。
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