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捨て犬彼女

32人が参加

今日、彼女を拾った。
 三人称としての「彼女」ではなく、「彼氏彼女」の「彼女」である。
保護した動物をを擬人化しているわけでもなく、正真正銘の、人間の「彼女」だ。
そして、「拾った」は文字通りの意味なのだ。そう、子犬や子猫を拾うかのように。
彼女は大きめの段ボールの中に捨て猫よろしく入っていた。
大きめとはいえ、人間が入るといささか狭そうなサイズの箱だ。
側面にはマジックで書かれた「拾ってください」の文字。
「事実は小説よりも奇なり」そんな言葉が本当にあるのかと疑っていた。やっぱり架空の世界で何でもありな小説よりも、事実の方が奇妙だなんて。

彼女を見るまでは、そんな風に僕は考えていた。奇想天外、合縁奇縁、あるいは奇跡──彼女との出会いは、どのように呼ぶべきだろう。
そんな僕の考えをよそに、彼女はくりくりとした目をじっとこちらに向けている。
「拾ってください、ね。拾ってきたって言うと聞こえが悪いし、僕の『彼女』にならない?」
ほんの冗談のつもりで僕はそう言った。
僕にしては、普段言わないような冗談だ。
しかし、美しい顔をした彼女を見ると、しぜんと言葉がそう出てしまった。
彼女はこちらをまじまじと見つめるだけで、何も答えない。
くりくりとした目に嫌悪感はなく、いたたまれないほどに純真さをたたえていた。
気恥ずかしくなり、僕は笑い飛ばそうとする。
「そうだ、この後、晩ご飯作ろうと思うんだけど、何か好きなもの…」
こくり、と彼女は静かに首を縦に振ってくれた。
こうして僕の家にやってきた「彼女」だが、まだ名前を聞いていないことに気がついた。
名前を聞くと、彼女は小首をかしげた。
接していてわかったことがある。決して声を出せないというわけではないが、言葉を口にするのではなく、身振り手振りで伝えるほうが得意なようだ。
「名前、覚えてないのかい?」
うん、と彼女は頷いた。
【業務連絡
本作は完結後に編集し直し、小説家になろうへ掲載を予定しています。ご了承いただける方のみご参加ください。
本文の途中にこのような書き込みとなったこと、お詫び申し上げます。】
「うーん……名前、何がいいかな」
僕が考えあぐねていると、ぐぅぅぅとお腹が鳴る音がした。隣に視線を向けると、彼女は赤面している。
「先にご飯にしよっか」
僕が台所へ向かい冷蔵庫を開けると、彼女は一緒になって冷蔵庫の中身を覗き込んできた。
そして、いくつかの食材を手に取るとそのまま料理を始める。
僕は一人暮らしをしている。人並みに家事スキルはある。得意な野菜炒めを作ることにした。懐に優しい料理だ。彼女は美味しく食べてくれるだろうか。
僕が料理をしている間じゅう、彼女は僕にまとわりつくように手元を覗き込んでいた。
そして、野菜炒めが出来上がると待ちきれないとばかりに大きな一口を頬張る。
なんだか子犬みたいな子だ。
僕はご飯中俯いて彼女のことを考えていた。彼女はどうしてあそこにあんな風にいたのか?名前がないのか?そして、口下手なのか?ご飯を食べ終わったら聞いてみよう。そうして、彼女の方を見上げた。
すると、思い悩んでいたことが馬鹿馬鹿しくなるくらい真っ直ぐな笑顔がそこにあった。
無意識のうちに彼女の頭を撫でようと手が伸びる。
その時、彼女は怯えた目で身をすくめた。
さっきまで子犬のようになついていた彼女はいま猫のように警戒していた。なにかトラウマでもあるのだろうか。僕は疲れもあり深く追求しようとはしなかった。彼女のための寝る場所の準備をして、眠りについた。
翌朝、目覚ましが鳴って目を覚ますと横で彼女が眠っていた。寝場所は違ったはずなんだけどなあ、と思いながら、顔に見惚れていた。ザ・美少女の寝顔はいくら見ても見飽きない。彼女がふにゃあと言いながら寝返りをうつとこっちはドキドキする。
なんだか犯罪でも犯しているような気分だ。
でも、僕らは恋人同士なんだから、これは当然の行為なんだ……よね?
すやすやと寝息をたてる彼女の頬を軽く指先でつついた。
ふにふにして気持ちいい。
「あぅぅぅぅっ!!??」
彼女が飛び起きた。
彼女が恥ずかしそうにした。もしかして無意識だったのかな。ちょっとこっちも恥ずかしくなるよ。

僕らは支度して外に出た。彼女は服を昨日の分しか持っていない。だから、近くのアウトレットモールで買いに行くことにした。
その途中で、彼女を拾ったあの道に出た。
そこには昨日と同じ、大きな箱。顔を覗かせているのは--。
「おっさん!?」
同じように箱には、「拾ってください」の文字があった。

僕は立ち止まって躊躇した。彼女を家に連れて行った(保護といった方がただしいのかな?)のは彼女があまりにも美しかったという下心をのぞかせる理由が多少あったからだ。そして、その日の僕の気分とかか合わさって。でも目の前のおっさんは......。
彼女は横でただ単にななめ上を向いて僕の顔色をうかがっている。彼女の手前、僕はどうすればよいのだろうか。
「なんだい、きみ。わしの顔に何かついているかね?」
おっさんは箱から身を乗り出して僕に顔を寄せてくる。
中年男性特有のなんともいえない臭いがした。
加齢臭。
耐え難い、というほどてはないけれど。
それでもしっかりと不快なその臭いに、僕は顔をしかめた。
「……ふむ。きみは女の子なら拾うが、おじさんはいらないというのだね?
それは差別というのではないかい?」
おっさんはこちらのことなど気にもせず、どんどんと話を進めていく。
「え、いやあ、そういうわけじゃあ……」
乗り出してくるおっさんから一歩分距離をとりつつ、僕は思考を巡らせる。
どうしよう。これ。
「パパったら、もう!いい加減にしてっ!」
初めて彼女がまともに喋るのを聞いた。
けれど、それは僕が望んでいた形ではなかった。
彼女の放った言葉に僕はおののいた。

……パパ?
彼女は恐ろしい剣幕でおっさんに詰め寄った。
「私はね、この人と寝たの。もうパパが思ってるような私じゃないの」
なんだかもの凄く語弊のある言い方をされている。
おっさんは悲しそうに眉をハの字にすると、よろよろと後ずさって箱の中に崩れ落ちた。
「あの、お父さ...ん...?これには語弊がありまして...」
「わしはお前をみとめとらんぞ!」
僕はすごい剣幕で怒られた。彼女は意に返さずいつもの雰囲気に戻ってる。なんだよ、この状況。
「な……なあ、パパと一緒に帰ろう。ママもお前の帰りを待ってるんだ」
幼い子を諭すような、それでいて懇願するような口調。
どうしておっさんが娘に頭が上がらないのかはわからないが、彼女の方が立場は上らしい。
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