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新緑少女の独り言 "Hundred years after"

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ファンタジー

「新緑少女の独り言」の100年後の物語です。世界観の背景がリンクしてくるので、前作を読んでおくことをおすすめします。


かつて国際連協という組織が設立され、世界の平和を願った時代から100年。世界の様子は平和からはいまだに遠かった。各国が勢力を増大させるため、さまざまな民族を平定して、多民族国家を目指した。しかし、その不満が20年、30年経つと爆発寸前になっていたのだ。いまや、世界は火薬庫さながらだ。
あ、僕は誰かって?僕は東秦皇国の貴族で領主の西条肇だ。現在18歳で先月家督を継いだ。父の暗殺を契機に。西条家は東秦の首都である桜京の北側にある地域を領有している家柄だ。そこには伝説の山がある。
その山は不思山という。そこにはぽっかりと空いた無の空洞がある。何も育たず、何も恵まない。ここにはかつて国際連協設立に影響を与えた少女とその父でありスノウアイス伝説の英雄、旧サウスサンドの王族である母の3人が住んでいたと言われている。少女は不思議な力を持ち、世界を破壊するかもしれなかったが、誰よりも平和を願ったのだという。ただ、これは一部の国には都合が悪かったのだろうか?彼女たちの足跡は国際連協神話として残っているにすぎなかった。
西条家はもう一つ仕事があった。それは国際連協の東秦代表としての仕事だ。いまや、平和から程遠い大国の外交バトルの舞台となった連協で会議に出席し、東秦の意見を発しなくてはならない。これは骨が折れる。なんたって18歳の少年が意見するんだ。舐められ、いやな顔をされる。
そして、今日もシーサイド共和国首都リンディンにある国際連協本部にやってきた。シーサイドは東秦と同じ島国だ。そして、リンディンは世界的な金融街だ。街の中心部にある時計台は発展の象徴である。中立国として軍事費を全部経済発展に使った結果だ。リンディンの商人との交渉は数分で勝負という言葉が出回るほど、彼らは金に目ざとい。ただ、交渉にも長けているので、いつも議長をしている。
毎週のように新たな国際問題が出てくる。一つも解決しないのに。今日はラベリア王国の内政不安についてだ。ラベリア王国はウェストスターの南側にある大陸に位置する国だ。ウェストスターで奴隷解放宣言が70年前に出されて、その子孫たちがウェストスター支援のもと建国した国だ。鉱山から出る豊富な鉱石を背景に成長してきた。しかし、数年前からある宗教組織が台頭して、国王を傀儡にして政治を行うようになっていた。国民の多くはその宗教を信仰していないため、宮廷と民衆の間に溝ができ、3日前ついに内乱が勃発したのだ。
こういう内戦は大国の駆け引きに使われやすい。ましてラベリア王国は貴重な資源国家だ。触手を伸ばしたい国はたくさんある。そこで、今回、議題にしてお互いに牽制しようということだ。東秦はこの件に関しては中立の立場だ。位置的に遠いのもあるが、ウェストスターが絡んでるからというのが大きい。
ウェストスターの国際連協大使のフィルバートンは強硬に主張した。
「自由を求めるラベリア国民の意思を尊重し、反体制派を国際連協で支持しよう」
やはり、そう主張してきたか。ウェストスターはどうにかしてラベリア王国への影響力をキープしたいのか。そして、ウェストスターに同調する大陸西側諸国も賛成を表明した。
大陸西側には昔はレムティアン王国という国が存在していた。しかし、ウェストスターとの戦争に100年前破れ、しばらく併合されていた。その戦争はウェストスターの新兵器による勝利とされていたが、都市伝説ではあの不思山に眠る伝説の少女の力が決め手であったと言われている。たしかに、旧レムティアン領には不思山と同じ何も育たない場所があるのだ。バグシフォンという負の遺産だ。
そんなウェストスターに支配されたレムティアン領内では各民族が不満を訴え、独立していった。その数は15にものぼる。解体したレムティアンをウェストスターは放棄したが、その諸国に資金を提供して、影響力を確保していた。
会議は順調には進まない。ウェストスターと敬遠の中であるスノウアイス連邦が反対を表明した。スノウアイスの国際連協大使エリカチェーナは鉄の女として有名だ。
「革命は必ず、人民に負担を強います。それに、ウェストスターはラベリア王国がほしいだけでしょ?」
スノウアイスは人民も資源もすべて国家が管理する社会主義国家だ。たいして、ウェストスターをはじめとする多くの国は自由主義的資本主義を貫いている。もちろん東秦も完全に資本主義かと言われたら、疑問符があるが、一応は資本主義国家だ。
終わらない会議。平行線上の議論。一旦、休憩に入った。お茶を飲もうかとぼくが手を伸ばした時、フィルバートンが話しかけてきた。
「やあ、西条さん。東秦はどちらの立場なんです?」
「我々はこの件に関しては中立ですよ。ウェストスターにもスノウアイスにも賛同しません」
「それは困りますねえ。東秦さんには私どもに賛成してもらわないと。あなた方の国債を誰が一番所有しているんでしょうね?」
「ほう。ウェストスターさんは脅すんですか。それならこちらにも考えがありますよ。あなた方ウェストスターはラベリア王国の宗教組織にも反体制派にも武器を売ってますよね?」
フィルバートンの顔が引きつった。東秦の秘密警察が突き止めた情報だ。確かな証拠もある。ウェストスターに対して、優越できるから今まで黙っていた。
「これでも我々東秦は譲歩してるんですよ?ウェストスターさん」
「ちっ。サムライ野郎ども。スノウアイスにはその情報渡すなよ」
「ええ。今は渡しませんよ」
しばらくしてエリカチェーナがやってきた。相変わらず胸元をあけたド派手な衣装だ。本国のスノウアイスのような雪国でもこの格好なのだろうか?清楚を重んじる東秦には全く理解できない。すると、彼女は口を開いた。
「ウェストの情報持ってない?持ってたら、あっちの部屋でいいことしてあげてもいいよ?」
「あいにくハニートラップは受け付けてないので。それにあなたはタイプではない」
「お堅いわね。サムライの国は。もしかして下もお堅いのかしら?」
「スノウアイスはこんなのばっかなのか?」
「なによ、人を変態扱いして」
「あながち間違ってないだろ」
「で、東秦の秘密警察はウェストの情報ないの?って聞いてるの」
「握ってたとしても教えると思うか?」
その後、会議は一応の決着をつけた。とりあえず、使節を派遣してラベリア王国の政治状況の調査書を報告するというもの。そして、運の悪いことに使節の代表3人のうちの1人に僕が選ばれてしまった。あと2人はエリカチェーナとケナディア国のトールという男だ。
東秦が選ばれたのは中立だからだろう。そして、スノウアイスからエリカチェーナが推薦されるなら、ウェストスター側からも人物が立てられるのも当然だという流れになった。しかし、フィルバートンはこういっためんどくさいものはやりたがらない。そこで、旧レムティアン領の独立国でウェストスター派のケナディア国に白羽の矢が立ったのだ。
僕は一度東秦に戻った。国内の諸々の仕事をこなして、旅の準備をしなければならない。そこに女が現れた。
「あぁ、初か。急に現れるからびっくりした」
現れたのは西条家隠密部隊の初というくノ一だ。いつも急なところから現れる。
「主、小耳に挟んでおきたいことがあります」
「なんだ?」
「分家の南条家から不穏な動きが見られます。幾度かウェストスターの大使やスパイと思われる人物と接触しています」
「そうか。南条の世間知らずをウェストスターは目をつけたか。めんどくさいことになった」
「引き続き、見張っておきます」
「頼むぞ、初。僕はしばらくラベリア王国に滞在しなければならない」
「何かありましたら、速攻で電報を飛ばします」
南条家は西条家の分家だ。東秦の南の方の土地を領有している貴族だ。かなりの有力貴族だが、当主がバカだ。僕の二つ上だが、そう世間知らずなんだ。
2日していざ出発しようという時、また訪問者が現れた。
「肇!しばらく東秦に戻らないならあたしも連れて行きなさい!!!!」
「は?なんでだよ」
「あたしが寂しくて死んじゃう」
この女性は東秦皇国宰相の鬼藤博文の娘ミヤだ。僕の許嫁でもある。ものすごく美少女ではあるが、小さい頃から一緒に育てられたため、べったりしてきて、少々煩わしい。埒があかないので、連れて行くことにした。
2日していざ出発しようという時、また訪問者が現れた。
「肇!しばらく東秦に戻らないならあたしも連れて行きなさい!!!!」
「は?なんでだよ」
「あたしが寂しくて死んじゃう」
この女性は東秦皇国宰相の鬼藤博文の娘ミヤだ。僕の許嫁でもある。ものすごく美少女ではあるが、小さい頃から一緒に育てられたため、べったりしてきて、少々煩わしい。埒があかないので、連れて行くことにした。
東秦はラベリア王国と国交がないため、ラベリア王国と国交のある覇帝国に向かった。覇王朝は遊牧民族のストラスを西に追いやり、ストラスの保護国であったサウスサンドを滅ぼして建国した国家だ。皇帝独裁体制のもと強固な国家基盤を持ち、科試という試験に通った優秀な官僚が補佐している新興国家だ。その都の大京は空前の繁栄を遂げている。
「すごいわね、肇。どれもおいしそう」
「食べ物にしか興味なさそうだな。あそこ入ってみるか?」
僕らは麻婆豆腐というものを食べた。少し辛いがうまい。ミヤはパクパク食べている。もう少しおしとやかにしてほしいものだ。
店を出ると何やら騒ぎがあった。
「どうしたんですか?」
「あー、あんた夷狄か。あそこにいる夷狄が捕まったんだよ。皇帝をバカにしたとな」
夷狄とは覇が外国人に対して使っている蔑称だ。人混みをかき分けて見てみると髪が金色で、グラマラスな女が軍隊に拷問されていた。女に見覚えがあった。
「おい、エリカチェーナか。なにやってんだよ」
「あぁ、ハジメ!これなんとかして」
ラベリア王国に向かうためエリカチェーナも覇に訪れたのだろう。
「すみません。この人を放してやってください。スノウアイスの国際連協大使なんです」
「だが、この女は皇帝をばかにしたんだ」
「なんといったんですか?」
すると、エリカチェーナが口を開いた。
「たいしたことは言ってないわ。皇帝がいくら偉くてもベッドの上だったら私の方がアレを支配するわ。威厳のある皇帝を逆に支配してみたいわね、って言っただけよ」
「......。失礼しました。人違いでした。この人を軟禁しておいてください」
「ちょっとハジメくーーーん!!」
エリカチェーナはちょっと常識を身につけたほうがいいな。そこに馬に乗った凛々しい甲冑の男が現れた。
「はなせ、その女を」
「しかし、李将軍。この女は」
「スノウアイスと問題は起こしたくないのが上の方針だ。逆らうのか?」
「いえ、それなら」
エリカチェーナは解放された。李将軍は颯爽と去っていった。
「いやー、災難だったわね、ハジメ」
「エリカチェーナ、腕を組むな」
「そうよ!肇は私のものだから」
ミヤとエリカチェーナがバチバチと火花を散らしている。ミヤを連れてきたのは間違いだったかな。
僕たちは覇帝国を去り、ラベリア王国の空港にたどり着いた。飛行機の中が一番疲れた。右手はミヤが左手はエリカチェーナが組んでいて身動きが取れなかった。カンロビア空港を出るとトールが待っていた。
「何かに巻き込まれたのかな?」
「あぁ、巻き込まれたといえば巻き込まれたかな」
「修羅場......」
トールは見てみぬふりをして歩いて行く。僕たちも彼についていく。
ラベリア王国の宮殿で歓迎会が催された。ラベリア国王のリア王が出てきて、我々に挨拶してくれた。歓迎会を見た感じ、宗教的要素も見られない。街もそんなに荒れてないようだ。議題にあがった報告書がそもそも間違いだったのだろうか?
清楚な王女が飲み物を注いでくれた。
「私は第二王女のラビよ。楽しんでいってくださいね」
鼻の下を伸ばさないの!、とミヤに叩かれた。我々が国際連協からの使者だと知って、歓迎しているのだろうか?ますますわからない。
数日過ごしてみてもなにもこの国に問題があるようには思えない。しかし、ある日、なにを思ったかブラブラと街をトールと探検していると壁紙が剥がれて隠し扉がみえた建物があった。
「なんだろう?行ってみよう、ミスターハジメ」
地下通路に繋がっていた。僕らは前も後ろも十分に警戒して、進んでいく。トールも僕もある程度、護身術は身につけている。何かあっても命くらいは守れるだろう。しばらく歩いていると、光が漏れている部屋があった。なにやら呪文のような声が聞こえてくる。扉を気づかれないように少しだけ開けて、僕らは中を伺った。すると、なかには白装束の男たちとミイラのように干からびた人間たちがいた。白装束の男たちは呪文を唱えており、その中央から手を伸ばしている少女がいた。見覚えがあった。ラビだった。
ラビは布一枚を羽織って、虚ろな目をしていた。そして、手をかざすたびにまた一人、人間が干からびていった。まるで全身の精気を奪われていくかのように。僕は信じられない光景を見てしまったと唖然となった。その時、白装束の男の一人と目があった。
「儀式を中止しろ!侵入者がいたぞ」
その声に聞き覚えがあった。接待してくれたこの国の大臣の一人だった。報告書に嘘はなかった。この国は宗教組織に乗っ取られていたんだ。
男たちは追ってきた。急いで僕たちは建物を抜けた。顔を見られてしまった。はやく宮殿に行って、ミヤとエリカチェーナに伝えて脱出しないと危ない!だが、追っ手はきていないようだった。少しペースを落として向かうことにした。
最悪な事態だった。宮殿にいくと多数の兵が僕たちを待ってましたとばかりに構えていた。ミヤが人質になっていた。エリカチェーナは見当たらない。そして、先ほどまで建物の中にいた大臣たちとラビもいた。
「トール殿に西条殿、私はラベリア王国の大臣をやっておりますレイヴンというものです。そして、ゼロ教団の教祖補佐もやっております。先日の歓迎会ではきちんと挨拶できていなかったようなので、ここで」
「お前らが地下でなにをやっていたかは知らないが、このことを連協に報告したら、ただでは済まないぞ」
「おやおやトール殿、ご自身の立場をわかっていないようですね。なぜあなたたちがやってきたときこの国で内乱が見られなかったのか知りたいですよね?私たちはついに手に入れてしまったのです。"ゼロ"の力を。これによって反体制派の人間の知性や腕力の全てを無に返したのです。東秦の西条殿なら"ゼロ"を知っていますよね?」
「ああ、知っている。100年前、今の世界の秩序を作り出したという少女の力のことだろ?我が国の不思山に眠ると言われているが。全てを無に還す力……。しかし、それは伝説上の話だ。そんな力があり得るわけない」
「おやおや、この力は本物ですよ。そして、おそらく100年前もこの力はあったのでしょう。しかし、当時の国家元首たちはなかったことにした。それほど強力な力だったのです。今は弱体化していますが、当時強勢を誇ったストラス族の族長イリアス=ハンも戦いをなくす少女の力に感謝すると石碑に残しています。この力があれば世界を全て征服することだって可能です。わかりますよね?もはやあなたたちを恐るに足らんのですよ」
「待て!どうやってその力を入手したんだ?」
「まあ、あなたたちはここで死ぬから教えてあげてもいいでしょう」
そう呟くとレイヴンは語り出した。
私たちゼロ教団は教団のもと世界中の民が平和に暮らすという教祖ソロモンの願いで設立されたのです。そのため私たちに対する反乱分子を除去する手段を求めていたのです。そんな中"新緑少女の伝説"を知ったのです。少女と同じ力を再現する方法を求めていました。そして、各地の伝承を求め歩いて分析しました。この力は大地からの贈り物だということが分かったのです。母なる大地、つまり女性にしかこの力は宿らないと考えました。各地で少女を攫って、様子を見ましたが力の兆しは全く見られませんでした。そこで新緑少女のバックグラウンドを探ってみました。すると、少女はサウスサンドの旧王族とスノウアイスの伝説上の建国者の子供だったではありませんか。一つの仮説にたどり着いたのです。王の器と王の器の娘が結婚し、成した娘に力が宿る、と。そうとわかると私たちはラベリア王宮に取り入り、政治を掌握してその皇女たちの様子をみることにしたのです。リア王の妃はリプト王国の王族出身です。条件にぴったりあっていたのです。
結果はビンゴでした。第二王女のラビ様が触っていた植物から精気が消え。枯れることが度々あったのです。私たちは自分たちの都合の良いように王女を調教し、洗脳しました。そして、つい最近王女は力をコントロールできるようになったのです。私たちはもうなにも恐れません。

そう語るとレイヴンは奥に引っ込んでしまった。
「そこにいるミヤという女を使って力を証明してやれ、ラビ」
ラビは少し間が空いたあと頷き、ミヤに近づいた。僕はその間が奇妙に思えた。しかし、やるべきことがある。待て!、と言おうとした時、金髪の女が王宮の3階から現れ、ミヤを拘束していた兵を気絶させ、ミヤを救った。
「エリカチェーナ!」
エリカチェーナは鉄の女だ。この由来は彼女の武勇によるものだ。スノウアイス軍の精鋭に所属していたこともある腕利きだ。敵には容赦のない冷酷さを見せる。普段のおちゃらけた様子からは微塵も感じられない。
「トイレ行ってる間になんかすごいことになっててびっくりしたー。ハジメー、あとで褒めてー」
「エリカチェーナ、ありがとう。ただ離れてくれ。暑苦しい」
ラベリア王国は赤道直下の国だ。フォーマルな服装で暑い上に抱きつかれたらたまったもんじゃない。
「あいつらを捕らえろ!」
レイヴンは兵たちに命令した。僕たち四人は逃げることにしたが、どこへ行けば良いのかわからない。おそらく国中を教団に占拠されているだろう。とりあえず、スラム街の方に隠れることにした。スラム街はあの力のせいであろうか?人が全く見当たらない。
「どうするべきだ?ミスターハジメ」
「少し気にかかることがある。ラビがミヤに近く前の肯定に微妙な間があったんだよ」
「それがどうしたんだ?」
「もしかしてラビは洗脳なんかされていないんじゃないか?」
「ならどうして教団に協力を?」
「例えば、命令に逆らったらひどいことをされるから従わざるを得なくなっている可能性もある」
「なら、あの力で殺してしまえば」
「それができないぐらいトラウマになっているんだと思う」
「そんなのってある?」
「トール!あんたは黙ってなさい。女にはあるの。彼女の名誉を傷つけるわ」
エリカチェーナは今までにないくらい怖かった。だが、それもわかる。僕もその可能性に行き着いていたから。ラビは教団から身体的に何かされていたんではないか。そう予想できる。
僕たちは必ずこの国の真実を世界に伝えなければならない。そのためにはこの国の軍隊の包囲を巻き、ラビを連れ出して国外へ脱出する必要がある。難易度はsランクだろう。だが、このままでは殺されるかここで一生を終えてしまう。
そのとき、奥の通路から老人が現れた。
「あなた方は外国人ですか?」
老人はみすぼらしいながらも気品が伺えた。ただ、教団の人間かもしれない。警戒を怠らないようにする。
「おかしいですよね。ここには人はいないはずでは?」
老人は唸った。そして、咳払いをして、話し始めた。
「すまない。自己紹介が遅れた。わしはリア=カウラという男だ。ついこのあいだまでこの国の王をしていた」
え、そんなはずはない。第一、リア王はあの宮殿にいた。
「信じてくれないかもしれないが、これを見てくれ」
そこには世界各国の王しか持たない指輪があった。この指輪が外されると世界の王家に一斉に通知される。だから、取り外さず王は必ず身につけている。何よりの証拠だ。
「わしら王族はここ数年は教団の傀儡となっていた。彼らはラビの力を狙っていたんだ。わしは愚かな父だ。ラビがどこかへ連れていかれても立ち上がれなかった。教団から約束されていた。民には決して手を出さないと。わしは父より王としての責務を優先したのだ。しかし、反体制派の蜂起の際、ラビの力が完成されてしまった。わしはもう用済みとなり、宮殿を追い出されたのだ」
「あなたを責めるのは後にしましょう。いまは時間がない。とりあえず、質問をいくつかする」
「ああ、構わない」
「いまのリア王は誰なんだ?」
「あやつは、、、ゼロ教団の教祖ソロモンじゃ!あやつは人身掌握術を身につけている」
なるほど、だから最初の歓迎会のとき人がよさそうに感じたのか。少なくともこの老人よりはずっと。
「もう一つだけ。王宮には他に通路はあるか?」
「ある。カンロビア図書館の地下から王宮までの隠し通路がある。この通路を知っているのはわしら王族だけだ。通路はわしの部屋の本棚に繋がっている」
「わかりました。情報提供ありがとうございます。あなたへの処遇は僕らがここを抜け出し、国際連協での会合で決めます」
「わかった。どうかラビを、この国を、助けてください」
僕とエリカチェーナ、トールは地下通路を通って、ソロモンを急襲し、ラビを連れ出す作戦を立てた。ミヤには隣のバンジェリア共和国への経路の下調べをお願いした。とりあえずはラビを救出して逃げ切らなければならない。もしラビが拒否しても必ず。
カンロビア図書館前の兵は2人だけだった。トールが後ろから2人を気絶させた。中にはラベリア国民がいるが、構わず自然科学の図書コーナーに行く。あった!通路が。下りると、中は蜘蛛の巣だらけだった。長いこと使われていなかったのだろう。なんのために作られた通路なのか?蜘蛛の巣を払いながら進んだ。
王宮側の扉の前まで来た。この向こうにソロモンがあるかもしれない。3人は準備をして勢いよく開けた。やはり、ソロモンがいた。彼は一瞬驚いたが、すぐに冷静になり、部下に知らせようと外へ出ようとした。この間わずか3秒。おそるべしソロモン。しかし、エリカチェーナは見逃さなかった。すぐに扉の前に移動し、逃げ場をなくした。しかし、なんと護衛は天井裏にいた。僕とトールが上から攻撃した彼らを迎え撃つ。
戦いはかなりの苦戦だったが、隠し持っていたスタンガンでなんとかなった。エリカチェーナの方もソロモンを拘束したみたいだ。大幅なロスだ。体力もかなり使った。
「そいつの言葉に耳を傾けるな。人身掌握術がある」
「わかったわ」
「こちらからの質問だけに答えろ。ラビはどこにいる?」
「一国の王に何をするんだ!?お前ら」
「あなたが教祖ソロモンだということはわかってる。質問に答えろ」
「......。そうか、わかった。しかし、私が言ったところでそこにいる教団直属の兵には勝てないぞ。それにラビの力はこちらにある」
ソロモンはラビが匿われている場所を伝えた。そこは医務室だった。僕たちはソロモンを動かないように拘束して、外へ出た。そして、廊下で出会う兵を気絶させ、医務室の前に来た。そこから悲鳴のような声が漏れている。嫌な予感がする。扉を開けると、ラビをベッドに乗せて囲むレイヴンやほかの教団員、兵がいた。
「おやおや、西条殿たち。まさかここまで突撃してくるとはびっくりしました」
「なにをしている?」
「ラビが我々に従順だと確認させる儀式ですよ。まぁ、ここであなたたちは今度こそ死ぬでしょう。やれ、お前ら」
兵と戦いになる。さすがは腕利き。かなりやばい。だが、僕らの目的はラビの連れ出し。戦うことではない。だから、僕はラビに叫んだ。
「君はもう無事だ!ラビ!僕たちと一緒にここを出よう!ソロモンは倒した!君の父とも話した。恐れることはなにもないんだ!」
「でも、わたしには居場所が......。それに、またされてしまう」
「君がどんな存在でもいい。居場所は僕がつくる!だから、こっちに来てくれ!」
そこにレイヴンも声を荒らげる。
「ラビ!行くな!お前はもう我々に...グハッ」
エリカチェーナの飛び蹴りを真っ正面から食らったようだった。ラビは走り出した。僕のところへ。僕は彼女を抱きしめ、ここを逃げようとする。しかし、教団兵がそれを許さない。
トールが前に出る。
「先に行ってくれ!大丈夫だ、ミスターハジメ。ケナディアの戦士は死なない」
僕は頷き、ラビを抱え、エリカチェーナとともに走り出した。
王宮の外に出ると、ミヤの確保した脱出ルートでバンジェリア共和国まで一気に走り抜ける。だが、国境付近で連絡を受けたのかラベリア軍が数千の兵で立ちはだかる。ここでラビが声をあげる。
「私も力になりたいです。助けられてばかりなので!」
"ゼロ"を発動させ、兵は一気に戦意を喪失した。ゼロは一国の軍隊の力を超えている。この情報はほんとに世界に出してもよいのだろうか。だが、悩んでる暇はなかった。ここを突破して3人はバンジェリア共和国の国境に入った。
先にバンジェリアにたどり着いていたミヤと合流する。ミヤの目はラビを抱えている僕の腕へ向かう。微笑みながらも目は笑っていない。
「ん?どういうこと?」
エリカチェーナがすかさず答える。
「お前の居場所は僕が作るってカッコいいセリフをハジメはラビ様に言ったんだよ」
「へー」
「いや、ミヤ、ちが、う。これはその言葉のあやでして」
「え?ちがいましたの?だから私はついてきたのに」
ラビがとどめを刺す。僕のライフはゼロだよ。
バンジェリア共和国政府の手引きで僕らは飛行機で覇帝国へ向かい、エリカチェーナと別れた。とりあえずの判断でラビは東秦の西条家領で匿うことになった。いま、東秦の首都である桜京行きの飛行機を待っている。そこに初が現れた。
「肇様、ミヤ様。無事でなによりです。お疲れ様でした」
「あぁ、ラベリアの窮状はかなりやばい。急いで戻って報告書を提出しないといけない。トールはまだあっちにいる。生きているといいんだがな」
「忙しい中すみませんが、報告せねばいけないことがあります」
「なんだ?」
「南条家を始めとする南部の貴族たちがウェストスターに協力する意向を示しました。ウェストスターの工作は成功してしまいました。東秦がこれ以上ウェストスターに反意を示すなら内乱も起きうるということです」
「......深刻だ」
東秦で100年越しの内戦が起こるかもしれない。そして、いまラビという懸念材料を抱えてしまった。ウェストスターは必ずラビの力を欲しがる。力づくでも。
東秦に着いた。報告書を提出した。隠さずに。そして、トールがまだいることも。各国の大使はみなラビの力に驚いたが、フィルバートンのトール救出を最優先にすべきという主張にスノウアイスや覇帝国、東秦も賛成し、国際連協軍がラベリア王国に派遣されることになった。
ラビの持つゼロの力を失った教団の力はもはやなく、市民も蜂起し、その日に首都カンロビアは陥落した。だが、ケナディア軍やバンジェリア軍がトールの捜索を続けたが見つかることはなかった。戦士の亡骸は砂漠の中に消えたのだった。
教祖ソロモンの処刑を持って教団独裁体制が、打破されたラベリア王国は国際連協管理のもと本物のリア王が復位した。混乱が収まったら、民政に移行するという。
そして、今日は国際連協の定期会合だ。議題はやはりラビの引き渡しについてだ。ラビはいま西条家領にいる。おそらくゼロを東秦が持っているのは危険だと各国は判断したのだろう。だが、どこにラビを引き渡すべきなのか。
「ウェストスター大使のフィルバートンより提案です。彼女の力は本物かわからないので、ワシントンティノープルで魔女裁判にかけましょう」
「ウェストスターが独り占めする気だろ。力を」
結局、結論が出なかった。出ないということはラビは東秦にいることになる。それはいい。僕が彼女の居場所を作ると宣言したのだから。
そして、運命の日が来た。南条家ら南側の貴族がラビの情報開示、鬼藤家の独裁打破、西条家への優遇撤廃を求めて蜂起した。おそらく糸を引いてるのはウェストスターだろう。直接攻めると国際的にも非難されるし、また、ラビの力で消されてしまう。だから、都合のいい理由を並べるように南条に言ったのだろう。武器などは多分援助しているはずだ。
だが、ラビを渡したくなくなっていた。僕自身がラビと一緒に過ごすことを心地いいと感じてしまったのだ。ミヤにすら抱いたことのない気持ちだった。ああ、そうか。今回の戦いは東秦のためでも、世界のためでもない。自分のエゴのために戦おう。僕は今まで我慢しすぎていた。もうそんなのやめよう。僕は僕がしたいように生きて、死ぬ。何を犠牲にしてもいい。そこにある、手に入れたいものに手を伸ばさなくて何が西条肇だ。
南条らの宣戦布告から一ヶ月。両者ともまだ動きは見せていない。しかし、戦争の準備は着々と進んでいる。先制攻撃をどちらが仕掛けるかで国際世論が大きく動くから迂闊に手を出せないのだ。肇は国際連協大使から外務省主席に昇進したスノウアイス連邦のエリカチェーナ=キエフの元を訪れた。エリカチェーナは今日はピシッとしている。
「ようこそ、ハジメ」
「やあ、エリカチェーナ。今回は急用があってきたんだ。単刀直入に言う。不可侵条約を結んでくれないか?東秦はこれから内戦が起こるだろう。裏ではウェストスターがラビ入手のため政府によく思っていない領主を巻き込んだのだろう。スノウアイスまでラビ入手に動かれるとまずいんだ。」
「そういうことね。大丈夫。私たちもそのつもりよ。なんだったら同盟を結んでも構わないわ。ウェストスターの世界工作にはいい加減滅入っているからね。あいつらの都合で世界が動かれたら困るわ」
「ありがたい。だが、基本的には戦いは僕たちの力で行う」
「くれぐれもラビの力は......」
「ああ、わかっている」
ゼロの力は保有者ラビの心身に負担がかかり、寿命を縮める可能性がある。あと何回使えるのかわからない。
屋敷に戻った肇のもとに宰相である鬼藤博文がやってきた。
「西条君、君に海軍兵3000の指揮権を与える。思う存分戦ってくれ」
「わかりました。必ずお役に立ちます」
「ラビも船に乗せなさい。いざとなったら使うんだ、あの力を」
「しかし、それは.......」
「命令を聞け、西条」
ああ、鬼藤博文はこういう人間だ。苦手だ。東秦が少しずつ歪み始めていたのも彼のこの強硬な姿勢もあるのだ。そして、僕を年齢で下に見ている。ミヤはよくこんな家庭で気高く育ったなと思う。

「伏せてください!」
初の叫び声が聞こえた。銃弾が鬼藤の耳元をかすめる。
「何事だ!?」
「鬼藤さん、ご無事でしょうか?敵からの刺客です」
「捕らえろ!」
数分後、SPに捕らえて連れてこられた女がいた。だが、女はこちらを見て、睨んで下に隠していた毒針で自決した。

「おそらく南条側のものでしょう」
「私を直接狙ってきたのか。わかった。南条側を総攻撃しよう」
「ですが、そうすると国際世論は......」
「そんなものどうでもいい!」
鬼藤はミカドの前に宣誓して空軍を出動させた。南条領を一気に叩くようだ。僕も海軍を率いて南側から南条家を叩くことになった。
政府側の方が圧倒的に優勢だった。しかし、戦争が大きく動いたのはその2週間後だった。僕は軍艦の上で連絡を聞いた。突如、覇帝国が参戦してきたのだ。南条側の貴族である椎木の海軍を撃破して、南条領に上陸して地上戦を始めようとしたそのとき、大砲を受けたのだ。東真の軍艦の二倍は軽くある船籍。旗には"覇"の文字があった。覇帝国は領土拡大の好機と見たのだろうか。だが、ここまで軍事力があっただろうか?まさか、ウェストスターと覇帝国は結びついていたのか。坂田家が率いる本隊と合流しよう。この軍艦と戦うのは危険すぎる。僕らは左に旋回して追跡を逃れようとした。しかし、そこに現れたのはケナディア海軍・バンジェリア海軍の姿があった。ウェストスターは自分の手を汚さずにこの戦場を掌握していたのか。内戦などではもはやない。世界大戦の様相を呈している。
元はと言えば鬼藤が先制攻撃を仕掛けたから各国が参戦してきたのだ。待てよ、鬼藤はなぜあのタイミングで僕の屋敷を訪れ、襲われたのだろう?もしや......。僕の予想が確信に変わったのはそのすぐ後の初からの連絡だった。
「肇様、最悪の事態が起こってしまいました......」
「まさか...」
「ええ、そのまさかです。鬼藤政府は南条・ウェスト側に恭順し、この戦いの原因を西条肇による政変だと発表しました」
「クソっ!」
恐れていた事態が起きた。戦争は全軍出せば、1週間で片がつくはずだったんだ。道理でおかしいと思った。僕に「好きに戦え」と。鬼藤は始めから力を持ちすぎた僕を消したかったのだろう。ついでにラビを。そして、ウェストスター・覇帝国などと共謀したというところか。多分この戦いに勝ったら鬼藤は南条らも殺すだろう。そして、この国を中央集権化する手筈なのだ。僕は間違えた。ここで終わりか。
いや、まだだ…まだ終わっていない…
まだ終わらせる訳にはいかない!
ここで諦めてはだめだ!
約束したんだ…ラビに居場所を作るって!
絶対に勝つんだ、この戦いに!
考えろ、戦いに勝つために僕が今、何をすべきなのか!
だが、そんな希望は味方だったはずの坂田軍の砲撃で崩れ去った。ずっと前から準備していたかのような砲撃。崩れゆく甲板。脱出用の小舟を出し、せめてラビだけでも助けようとすると、ラビが急に前へ出てきた。
「私の力を使います」
「だめだ!そしたら世界は......」
「いいえ、この力を使うのはあなたに対してです、肇さん。あなたは私と出会ったからこんな目にあったんです。せめて全てを忘れてあなたには生きていってもらいたい。あなたの中にある私との記憶をゼロにします」
「な......」
ラビは僕の前に立ち、何かを唱えた。僕は薄れゆく記憶の中、ラビが好きでした、と言っているのが聞こえた。
ーーーザバーン
波打ち際を僕は眺めていた。僕はいま覇帝国の漁村にいる。あの戦いから半年が過ぎた。断片的にしか記憶がなく、事後の事実しか知らない。しばらくは廃人と化していたものだ。何処かの国の新兵器によって、ある場所では海水ごと戦場が消えたらしい。そこにいたという僕の軍隊や覇帝国・ケナディア・坂田の海軍は全て一瞬でいなくなったそうだ。海の藻屑となることもなかった。なぜか僕だけはボートに気絶したまま乗せられてこの村に漂着したのだった。
この村の人は親切だった。何処の馬の骨とも知らない若者に食事や住居を提供してくれた。覇帝国は税が重いと聞いていたが、この村の人は幸せそうに生きていた。そして、ニュースにも敏感なおかげでいま僕は現在の世界の様子を知ることができている。
あのあと、僕の行方不明により、戦争は終結した。鬼藤は戦勝パーティーと称した祝賀会の会場に南条らを呼び出し、暗殺した。そして、貴族の所領を全て取り上げ、中央集権化を推進し始めた。しかし、この戦争に協力してくれた国のウェストスターや覇帝国、ケナディアと不平等条約を結ばなければならなくなり、それに反対した東秦の青年に鬼藤博文は暗殺された。
スノウアイスの助け舟によって、ひとまず不平等条約を結ばないで良くなり、再びの内乱を防げたようだった。
覇帝国は主力艦隊の喪失により、領土拡張の意思は頓挫せざるを得なくなった一方で、ウェストスターは今度は覇帝国に工作を仕掛けようとしているようだった。
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