彼女は勇者

3人が参加
コメディ ギャグ

「魔王タカシ! ついに見つけたぞ!」
これが7秒前の彼女の発言。
転校生の自己紹介としての第一声が「私は勇者ミコト・フジヤマだ」だったか。この時点で、だれもが彼女と関わりたくないという印象を持ったはずだ。
僕は、彼女に首を絞められながら少し回想する。
起床したのは14分21秒前。
遅刻を危惧して晴れ渡る通学路を自転車で爆走した。
ハアハアと息を切らせながら着席すると同時に、担任が入ってきたのが47秒前。
困惑気味の表情をしていたが、疲れのあまり気が向かなかった。
34秒前。
「今から転校生を紹介します」
うおーっと周りが盛り上がる。
30秒前。
美少女が扉を開け、教壇に立つ。男子のはやし立てる声が飛び交う。
26秒前。
「私は勇者ミコト・フジヤマだ」
静まり返る教室。
次に彼女がとった行動というと、クラスの名簿を手にしながら、生徒たちの顔を順々に眺める。謎の時間が流れる。
7秒前。
突如、すさまじい形相となり、脈絡なく怒号を飛ばす。
「魔王タカシ! ついに見つけたぞ!」
足を踏み出し、周りの机にぶつかりながら、僕の席へと肉薄する。
で、現在、僕は首を絞められている。
起きて20分も経っていないから、じつは僕が寝ぼけているだけで道理にかなった展開かと過去をさかのぼり吟味してみたが、やはりこれはおかしいのではと結論に至る。
勇者がこの日本にいるはずもなく、一般高校生である僕が魔王であるはずもない。
周りの反応も、ドン引きの様相だ。
とりあえず誰か助けてほしい。
そして、目が覚めてから気づいたのだが、この態勢はやばい。いろいろ当たっているし、いい匂いがする。変人とはいえ、美少女だ。美少女の腕の中で死ねるなら......。なわけねーよ。こんなところで死んでたまるか!まだ童貞だぞ。
「フジヤマさん!なにをしてるのっ!」
あまりの異常事態に静まり返った教室内に我に返ったのだろう。
先生は怯えと焦りの混じった叫び声をあげて、こちらに走ってきた。
走ってきた、というのは正直を言えばわからない。先生のものだろうヒールの音がカツカツカツと甲高い音を立てていたから、きっと助けようと走ってきてくれているのじゃないかと思った。
カツカツカツ、近付いて大きくなる音に比例するように目の前の美少女は力を更に込める。
「ぁっ…!!っ…!」
もがいた。首に絡まる手のひらをひっかいて、引き剥がそうとする。
もはや匂いなど一片も気にする余裕はなくなった。
顔中に全身の血液がとどまっているような圧迫感がひどい。ひっかく指から力が抜ける、視界がやにわに白くかすみだして…。

遠くで誰かが叫ぶ声が聞こえる。
揉み合うような、暴れるような音がする。
ふと気付くと、息ができた。
「ハッ…!っげほ、げほっ!」
目の前がひどくチカチカした。
自分を勇者だとのたまった彼女は、先生と大柄な体格の生徒に取り押さえられている。強烈な感情のこもった目をこめて僕をみていた。

正直に言おう。
この時、僕は今までにないくらい胸が高鳴っていた。
ブックマーク: 0
3%

***ログインして続きを書いてね!***
ログイン