ジャパンデミック

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プロローグ
西暦20XX年、日本の高齢化率は50%を超えた。若者の海外流出、高齢者の医療費高騰、生産年齢人口の減少など問題は重たくのしかかってきている。この問題に対処するために日本政府は厚生労働省を通してヤマト帝国製薬株式会社にある極秘命令を2年前に出した。
1部
二年後に作用する高齢者に対する遅延性の毒薬の製造だ。そして、今日がその2年目ーーーー
朝からテレビが騒がしい。「速報です。高齢者があちらこちらで一斉に悶え苦しみ始めています。前代未聞の出来事です。速報です。繰り返します。ーーーーー」僕はついに始まったかと複雑な思いを持った。ぼくはヤマト帝国製薬の社員だ。
当然このプロジェクトにも関わっている。罪悪感がないわけがない。しかし、この二年で自分のなかの人間性が失われていくのを感じた。
国家に知らず知らずのうちに蹂躙されていく国民。半年前、60歳以上を対象に更年期障害の予防ワクチンを接種された。それがヤマト帝国製薬のつくった毒薬メタトロンだ。
メタトロンは正確には毒薬ではない。ナノマシンである。あからさまに偽のワクチンを各医療機関に渡してその能力を検証されても困る。そこで実際に医療効果があるナノマシンを配布する方法を取った。2年間は人の体を病気から守り2年後に体内から人体を破壊するナノマシンを…。
そんな回想をしていたら、実家にいる妹から連絡が来た。叔母がなくなったと。ワクチンによって。叔母は両親のいない僕たちを女手一つ育ててくれた人だった。しかし、ぼくは見殺しにした。上からの命令には絶対服従だからだ。
ぼくはこの時気づいていなかった国がこれから行おうとしていたことに。

事件は翌日起きた。安西厚生労働大臣が会見を行ったのだ。
「今回の高齢者の連続死は大変遺憾です。高齢者は日本の宝なのですから。昨晩、厚労省で調査を行ったところ、これは2年前にヤマト帝国製薬のワクチンが原因でした。ヤマト帝国製薬のずさんな業務を我々日本政府は許しません」

なんと、政府はヤマト帝国製薬を生贄にしたのだ。自分たちが命令したくせに。上司から連絡がきた。
「日曜にすまないが、急いで社に来て欲しい。会見を見ただろ。会社に入る時はビルの地下から入ってくれ。外にはマスコミが取り囲んでいる」
ぼくは急いで、会社に行こうとした。その時、妹から連絡が来ていることに気がついた。
「お兄ちゃんはこのこと知っていたの?てか本当なの?」
ぼくは「話は夜に」とメールを打って、家を出た。まさか政府から裏切られるとは。

会社に着くと、ぼくが所属しており、ワクチンのプロジェクトに関わっていた「なでしこ研究所」のみんなが集まっていた。
そして、副社長の山名が出てきた。
「我々にとって、今回の出来事は終戦後以来最悪のものだ。君たちには知っての通り、今回のワクチンは上からの命令で作らされたものだ。ヤマト帝国製薬はかつて日本の敗戦によって、存続不能の状態まで追い込まれたところをGHQと新生日本政府に助けてもらった手前、要求を断ることができない。しかし、裏切られるとはな。だが、手を拱いている場合ではない。我が社には世界2万人の社員がいる」
ぼくは会社は日本政府に反撃するつもりなのか、とプラスな予想をした。だが、そんな予想は山名の次の言葉で打ち砕かれた。
「社を守るために君たちには犠牲になってもらいたい」
ぼくは一瞬耳を疑った。この人は何を言っているんだ?
「なでしこ研究所の暴走をこの件の真実として発表したい。そうすれば、我々は書類送検され、業務停止にはなるかもしれないが、いずれ再起を期待できるんだ。会社のために君たちには犠牲になってもらう」
どういうことだ。ぼくたちは会社の指示通りやってきた。それなのにこんな仕打ちか。
「もちろん、この件のほとぼりが冷めたら、海外にある我が社の関連会社へと秘密裏に再就職させてやろう。だからわかるよな?」
つまり、「この件は喋るな」ってことか。ぼくは怒りが込み上げてきたが、どうすることもできない。会社や国は大きいのだ。

山名が去った後、研究所のメンバーだけになった。みんな顔色が良くない。同僚の百川桃が話しかけてきた。
「私たちどうなっちゃうんだろう?」
山名はきっとこの提案を国にするだろう。そして、国家権力でこの件は「なでしこ」のせいになる。ぼくらは世間の晒し者になってしまうだろう。センセーショナルな記事が今頃たくさん出ているはずだ。ぼくたちは所長に意見を聞きに行くことにした。彼はぼくたちのお父さんのような理想の上司だ。きっと何か考えがあるのだろう。

ぼくと百川は所長室に向かった。鍵は開いていたが、電気は点いていなかった。電気を点けて、そのまま奥に進んだ。
所長が死んでいた。首を吊って。

百川は悲鳴をあげた。その叫び声を聞いて、警備の人が来た。ぼくも驚愕したが、いろいろなことが起こりすぎて妙に冷静になっていた。急いで、スマホを取り出し、119を押した。

救急車を呼んでから、40分は経っただろう。しかし、一向に来ない。会社の上層部の人はたくさん来ているのに。社長以下取締役は皆申し訳なさそうな顔をしていたのが、気に掛かる。
その時、黒服の人たちが入ってきた。そして、所長の遺体を回収していった。ぼくは止めようとしたが、山名に腕を掴まれた。気づいた。所長は殺されたんだ。この事件の口封じに。そして、ぼくらへの見せしめに。おそらく、黒服の人たちは公安かなんかだろう。
ぼくたちはこの日本では無力なのだ。味方などどこにもいない。ただなす術なく歪められた現実を受け入れなくてはならないのだ。

その後、ヤマト帝国製薬は「なでしこ研究所」のテロだと断定し、所長はその責任から自殺した、と発表した。マスコミはぼくたち研究所メンバーを執拗に追いかけ、顔出しで報道した。外出するときも公安に張られている。後輩の一人は今回の件で両親を失った青年に大怪我を負わされた。
そして、ぼくは妹から絶縁された。真実を話さなかった。話したら、彼女が巻き込まれる。地獄だ。全てを失った。ぼくは部屋に一人引きこもるようになった。

2部
私はロンドン本社のテレビ局BBBに勤める記者のマッカートニーだ。私はいま東京にある事件の記事を書くために来ている。
ある事件とは三ヶ月前に日本で起きた高齢者薬害連続死亡事件のことだ。日本政府の発表では、ヤマト帝国製薬のなでしこ研究所の暴走であると発表した。しかし、都合が良すぎる。これで日本の高齢化率は4%まで減少して、予算に使える社会保障費も減ったという。
私は日本政府が絡んでいると思っている。日本のマスコミの中にも疑っている人がいるみたいだが、箝口令が敷かれているみたいに誰も何も言わない。調査に来たWHOの職員も1週間後には日本政府の関与を否定した。私はなでしこ研究所のメンバーに接触しようと試みるが、うまくいかない。
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