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デッド・スクール

41人が参加
デスゲーム

「今から一時間後、みなさんの頭が爆発します」
突然、意味不明なことを、担任が口にした。
ついにモイはおかしくなったのか、と佐々木タクヤは思う。モイとは担任のあだ名。発案者は不明。「キモイ」という悪口から、木梨という名前通り「キ」を無くして「モイ」。ボサボサ髪で、いつも同じ服装をしており、不潔な印象が漂う中年。くわえ、常に不気味な笑いを浮かべており、とくに女子たちから忌避がられている。
放課後残ってください、と言うものだから、なにか深刻なことがあったのかと緊張していたが、第一声がそれだった。
「ちっ、俺は帰らせてもらうぜ。彼女を待たせてんだ」
丸坊主頭にピアスを開けた近藤イサオが席を立つ。隣のクラスのかわいい彼女は、とっくに学校から出ている。連れだって、周りの生徒たちも何人か席を離れていく。
「待って、いちおう先生の話を最後まで聞きましょ」
優等生のクラス委員、塩原アヤカが声を上げる。優しく、気配りが細やかで、おまけに美人で彼女を好いているものは多い。何人かは不承不承ながら再び席をつく。近藤はもう教室から去っていったようだ。
時計は午後六時を回り、窓の外は暗くなっていく。ほかのクラスたちはすでに家に到着し、マンガ読んだり、ゲームしたりしているのだろう。
佐々木タクヤはけだるげな目線をモイに向ける。いつものように、不気味な笑みがニキビ跡が残る頬に張り付いていた。
残っていても不毛だと思うがな。佐々木タクヤは吐息をついた。
「ちなみに校内からでても、頭が爆発しますよ」
加えて、担任はなにかを言っている。
「爆発してんのはお前の髪の毛だ」と、お調子者の伊藤タケルがヤジを飛ばし、数人が失笑する。
「防ぐ方法は唯一ある」
モイは急に先程は感じなかった覇気を纏ったような口調になった。スマホを取り出して、動画を撮っていた自称ユーチューバーの橋本リトの手が止まった。
「ちょ、こえーすよ。さっきから。なんすかもう」
口調はいつも通りちゃらけているが、おどおどしていた。
橋本リトのスマホに、醒めた目で一瞥してから、モイは皆に言い放った。
「校内のどこかにQRコードが隠されている。それをスマホで読み取り、URLにアクセスしたら解除成功だ。君たちの頸骨あたりにチップが埋められている。それを解除するのだよ」
半信半疑どころか、みじんも信じているような空気が、生徒たちにはない。
「ちょうど近藤くんが校内からでるところだ。彼が死ぬところを見てみるがいい」
「先生、いい加減にしてください! いくらなんでも不謹慎ではありませんか?」
ついに堪忍袋の緒が切れた塩原アヤカが机に手をたたきつけ、モイに言う。
「私たち生徒は教えを乞う身として、教師に忠実であるべきなのは理解しています。それでも冗談で生徒が死ぬと口にするのは、教師としてふさわしい言葉だとは到底思えません!」
塩原アヤカの言葉に、嘲笑軽蔑に加え、嫌悪が混じり始める。
「もとから俺たちは、こいつを教師と見てねえよ」
「今回は判断を過ったな、クラス委員長。話を聞いても意味がねえ」
「アヤカちゃん、もう帰ろうよ」
教室はすでに帰宅の流れになっている。
モイはなにも言おうとする気配はなく、ただただ不気味ににやついている。
無駄な時間だった。佐々木タクヤはカバンを肩にかける。ちょうど窓の外を見ると、玄関から一足早く教室を去った近藤イサオの姿が見えた。彼のようにそそくさと帰るべきだった。
まさに校門を出ようとするところだった。
それを眺めながら佐々木タクヤは席を立とうとする。
それは、突然だった。
校門を出た瞬間、近藤イサオの首が文字通り吹き飛んだ。
一瞬時間が止まった。そして、図ったように一斉に「キャー」とか「もうやめてよ」とかの悲鳴が飛び交った。
「わかってくれたか。これは命がけの宝探しなんだよ。もう20分も経ったか。あと40分後に、そうだな、まずは10人の首を飛ばそうか。全員ではないことに感謝しろ。では」
モイが去った後の教室はお通夜のようだった。それもそうだ。一人死んだ。そして、このあと10人が死ぬ。あいつは教師ではない。大量殺人鬼、テロリストだ。
「モイはなんでこんなことをしたんだ?」
佐々木タクヤは沈黙を破り、声を発した。
顔なじみの級友が、現実離れした突然死。
教室に停滞した空気が流れた。
悲鳴やすすり泣きが所々に聞こえるが、皆の頭は理解の及ばない空白に支配されていた。
「……う、うわぁああああーーーー!」
突如、空気を切り裂く叫び声が上がった。見れば、田中ミチルがカバンを手に持たず、転びそうな勢いで教室を出て行った。彼は、友達を作らなず一人を好む陰気な人間で、休み時間はしずかにラノベを読んで独自の世界にこもっている。
「きゃあ!」
女子生徒が悲鳴をあげる。何を思ったのか、田中ミチルは廊下側の窓に身を乗り出し、飛び降りようとしていた。「2-A」は校舎三階にあり、地面は中庭の土だが、この高さでは無傷で済むはずがない。
「ちょっと、田中くん!」
塩原アヤカの制止の声は遅かった。なぜなら、田中ミチルは足をかけていざ飛び降りようとした瞬間、首が吹き飛んだからだ。
近くにいた生徒の顔に、つい先ほどまで生きていたはずの級友の血しぶきが降り注ぐ。
先ほどとは違い、今度は眼前で訪れた死。
恐怖の叫びは倍に膨れ上がり、耐えきれず机の上に嘔吐した者までいる。
「なんだこれは……なんなんだこれはっ!」
佐々木タクヤの体に、経験したことのない戦慄が走る。指が小刻みに震え、こめかみには悪寒の脂汗が垂れ落ちる。
佐々木は、無意識に一人の少女に目を走らせた。
背中を流れる長い髪に、華奢な体格。楠原ミユウだ。彼女は、友達の鮎川ミレイの肩にしがみつき泣いていた。
なぜ佐々木タクヤはこの瞬間になって彼女に目が向いたのか、とっさに理解できなかった。楠原ミユウは、小動物みたいだった。可憐だが、高校生になっても幼げがぬけない童顔は保護欲をそそられる。佐々木タクヤらがちょっかいをだしたりすると、本気で怯え涙目になる。それをクラス委員の塩原アヤカにとがめられたりする。
教室は、混乱、恐怖で支配されていた。皆の頭は、ここから逃れたいという気持ち一心だった
そのとき、時ならずの放送チャイムが校内に鳴り響いた。
「あと10分で10人の頭が吹き飛ぶ。楽しみだな」

この放送チャイムは全員を現実に引き戻した。
「QRコードを探せ!」
誰かが言った瞬間、皆一斉に教室を出て校内中に飛び散った。外に出たら、死ぬことは田中の死で理解した。全てモイの手のひらってのが気に入らないが、終わらせなくてはならない。
廊下に出ると左右に分かれ、それぞれ北階段、南階段へとちりぢりになる。
教室のドアから遠い席だった佐々木タクヤは、自然と皆より遅く出た。
廊下を進み、階段を降りようとした際、尻目に塩原アヤカが教室近くに佇んでいるのが見えた。
腰をかがめ、今しがた亡くなった級友、田中ミチルの遺体に手を合わせて悼んでいた。
「おい、早くいかないのか」
気にかかり、つい声をかけてしまった。しばらく沈黙を置いてから、彼女はゆっくりと口を開いた。
「……私、信じられない」
「そりゃ、俺だってそうだよ。これはなんかのゲームなのか? どっかにあるQRコードをスマホで読み取らないと頭が爆発するって」
塩原アヤカはゆっくりとかぶりを横に振った。
「それもそうだけど……。私が信じられないのは、近藤君と田中君が死んだってこと。近藤君はすこし粗暴なきらいがあるけど、決して人を気付付けるようなことはしなかった。田中君とはあまり話したことないけど、話しかけたときは必ず笑ってくれるの」
手を下ろし、スカートのすそを直しながら立ち上がり、佐々木タクヤを見る。
「私、このクラスになって、絶対にみんなと仲良くなるんだと決めていたの。なんで先生がこんなことをしたのかわからない。けど、これ以上犠牲を出させない」
その瞳は、級友の死による悲しみに潰れそうになりながらも、強い光がやどっていた。
「佐々木君も協力してくれるわよね」
「ああ、もちろん」
そして二人はみなより遅れて、教室を離れた。
佐々木タクヤと塩原アヤカは二階の放送室にたどり着いた。
教室を離れ、図らずもそのままともに行動することになった二人。
おそらく体育館のような広い場所に向かったのだろう。他の生徒の姿は見当たらない。
最初の行き先をこの場所へと提案したのは塩原アヤカだ。QRコードではなく、このゲームを仕組んだであろう担任の行方を捜す目的だった。今すぐ中断するように言うのだ。
しかし、放送室は誰もおらず、放送器具が佇んでいるだけだった。
「モイの放送が聞こえてから、まだ5分もたってないよな」
「うん。たぶん、放送してすぐにどこかに行ったんだと思う」
途方に暮れて、佐々木タクヤはため息をついた。同時に先刻に放送された内容を思い返す。
”あと10分で10人の頭が吹き飛ぶ”
現在、その言を疑う者はいないはずだ。6分後には、クラスの10人が死ぬ。二人死んだため、現在の人数は38人。四分の一以上の確率で、自分の頭と体が爆発で寸断されるのだ。まんいち、誰かが早くもQRコードを見つけていたら、さらに自分の命が狙われる危険度が増す。
錯乱状態になり、叫びだしたい衝動に駆られるが、それでは何も解決しないことをわかっている。
塩原アヤカも同じく理解していた。それでも恐怖心を隠せていないことは、彼女の白い額にうっすらと浮かぶ冷や汗が証明していた。
部屋に置かれたマイクに目をやる。数分前、モイはそのマイクの前で言葉を発していた。はたしてモイはどのような心境で、告げていたのだろうか。
「とにかく、早くQRコードを探さないとーー」
ふと佐々木タクヤの目に留まるものがあった。
マイクの近くに、シールが貼られていた。黒い紋様が描かれている。
佐々木タクヤの視線を追い、塩原アヤカも気づいたようだ。
「……もしかしてこれって」
そこには、一つのQRコードがあった。
佐々木タクヤは疑問に思っていた。
QRコード一つにつき、何人が使えるのか。最初は、誰かがQRコードを発見し、クラス全員を呼び集めればいいと考えていた。が、もし一つのQRコードにつき、一人だけだったとしたら。
ちらと塩原アヤカを見ると、彼女も同じ考えだったのか、視線がぶつかった。
放送室の時計は、午後六時三十六分を示していた。
「佐々木君、先にいいよ」
もめあうと思っていたが、なんと塩原アヤカは譲ってくれた。愕然としたが、うちのクラス委員はそういう人柄なのだ。
とたん、佐々木タクヤは自分の命より、彼女を優先させたくなった。この状況下、うちのクラスは自分より、塩原アヤカという人物のほうが必要だ。
「いや、お前が使えよ」
「え、でも」
「男が女より先に助かろうなんてかっこ悪いからさ」
適当な発言だった。いくらこちらの献身を見せても、塩原アヤカはなおもためらった様子だ。
「時間がない、早く!」
つい、語勢が荒くなってしまった。
お互い譲り合っているのはもっとも不毛だ。彼女もそれを理解してくれたようで、ブラザーのポケットからスマホを取り出し、QRコードを読み取る。佐々木タクヤはその様子を後ろからのぞき込む。
つつがなく、QRコードを読み込むことができ、URLが表示された。
「押してみよう」
ぽんと指で押す。
すると、画面に次のような文字が表示された。
”出席番号12 塩原アヤカ クリア”
次に佐々木タクヤがスマホをかざす。しかし、そこには......。
"無効です"
無情にも一回しか使えなかったのだ。そして、タイムリミットが来てしまった。
長身が規定の時刻を通った時。
佐々木タクヤの背中に戦慄が冷たい糸のようにびんと張り詰めた。
瞬間、爆発がとどろいた。
おのれの頭部が血しぶきをちらしながら宙を舞い、空虚な眼球があたりを見回す……
「佐々木くんっ!」
その声ではっと我に返った。見れば、塩原アヤカが肩を揺さぶって、悲壮な顔をしていた。
手を自分の首元にあてる。異常はなかった。
どうやら、限度の過ぎた恐怖のあまり、自分の首が吹き飛んだ様を幻想してしまったようだ。
「ああ、ごめん。大丈夫」
今回は運よく死神の魔の手からまぬがれたようだ。
しかし、とどろいた爆音は、現実に起こったものだ。にわかに遠くから、クラスメイトの悲鳴がわき上がっている。
「とにかく、外に出よう」
二人は、用のなくなった放送室から出た。
階段前の踊り場は地獄絵図だった。QRコードを前にスマホをかざしたまま首が吹っ飛んで死んだ三人の男たち。そして、隣にはブルブル震えている女の子の姿があった。
「うっ」
凄惨な光景とむらがる血臭に、佐々木タクヤは口元を抑えた。
赤く染まる空間に一人残された少女に、塩原アヤカは駆け寄る。
「大丈夫?」
優しくかけられた声に、真っ青になった顔を上げる。
鮎川ミレイだった。
鮎川ミレイは、塩原アヤカの顔を確認すると、がばっと抱きしめるように身を寄せた。塩原アヤカの制服にも、鮎川ミレイに付着した血糊がくっつく。
「……違うの。違う、違う。私のせいじゃない……」
「鮎川さん?」
普段の彼女からは思えないほど、弱りきった声だった。いつも小鳥のような楠原ミユウを守る立場にあるため、親鳥と一部から呼ばれていた。
塩原アヤカは突き放すことはせず慈母のように受け入れ、級友の死体が視界に入らないようにこっそり位置を変え、頭を優しくなでる。
「大丈夫。安心して」
呼吸もままならないのか、乱れた気息が踊り場に響く。
それでも、鮎川ミレイは言葉を発しようとする。
「違うの。その人たちが死んだのは、私のせいじゃないの……。私、クリアしたけど、えっと……私が先にQRコード読み取ると譲ってくれて、そして、そして……」
今の説明で佐々木タクヤたちは理解した。
おそらく一つのQRコードにつき一人とは知らず、読み取れないことに混乱し、そのまま時間が来たのだろう。
踊り場の壁にあるQRコード。鮎川ミレイが使用したなら、ただの落書きだ。三人の死体を前に、どことなくせせら笑っているように感じる。
「とりあえず、近くの教室にそいつを送ろう」
佐々木タクヤが鮎川ミレイの肩を持とうとすると、
「違うの。ミユウが……ミユウが……」
その名前に、はたと佐々木タクヤの動きが止まる。
「……楠原がどうしたんだ?」
「さっきまで一緒にいたんだけど……QRコード、一回しか使えないとわかって、それでほかの人たちのために探してくるって、一人で……生きてるか、わからない」
佐々木タクヤの体内に冷水をかけられたような感触がした。
「どこへいった!?」
切羽詰まったような声に、鮎川ミレイはびくっとなりながらも、階段下を指さす。佐々木タクヤたちと来た方向とは反対だ。
「塩原、鮎川を頼んだ」
言うや否や、二人を置いて、佐々木タクヤは走り出した。
佐々木タクヤはなぜ自分が咄嗟に駆け出したのかをすぐには理解できてはいなかった。ただ、走っているうちに冷静に考え始めると自分の胸のうちに気付き始めた。楠原ミユウのことが好きだったのだ。儚く可憐で手を伸ばさなければどこかへ行ってしまいそうなあどけない少女を思っているのだ。ずっとちょっかいをかけていたのも年相応の恋愛感情の裏返しなのだ。あぁ、そうだ。だから佐々木タクヤは走っているのだ。
自分の恋心に気づいたのがこんな状況だとはと、どこか失笑してしまう自分がいた。
一階につき廊下に出ると、尻目に人影を捉えた。
顔を向けると、そこには二人いた。
一人は、呆然と突っ立っている生徒。クラスのお調子者の伊藤タケルだ。いつもにこやかに笑う彼の顔は、霜が張り付いたように凍りついている。
もう一人はとっさにはわからなかった。仰向けに伏せている。やがて、近くに転がっていた頭部を見て、その死体は加藤ダイキだと悟った。自律神経が心配になるほど些細なことでいきり立ち、真っ赤な顔で激昂していた彼の顔は今、生気を失って土気色になっていた。
「タケル!」
佐々木タクヤの声で、伊藤タケルははっと我に返ったように、こちらを見る。
「タクヤ……」
伊藤タケルの目にぶわっと涙が浮かび上がった。人が死んだ恐怖と友達を失った悲しみ、そこに佐々木タクヤがまだ生きていたことへの喜び。その激しい感情の振り幅に、精神が耐えきれなくなったのだ。
「ダイキ、死んだんだな」
「……ああ。QRコードがなかなか見つからなくて、さっきまでもめ合っていたんだけど。いきなり、首が爆発して……」
怒っぽかったけど、根はいいやつだった。佐々木タクヤは歯を食いしばって、込み上がってくるものを抑えつける。
「ところで、楠原を見なかったか?」
「楠原? ああ。十分ほど前に、すれ違ったけど」
「ほんとか!? ありがとな」
佐々木タクヤが再び足を走らせようとすると、
「ちょっと待て、おまえもうクリアしたか?」
「いや、まだだ。そっちは?」
「俺もまだだ。一緒についていっていいか?」
涙は収まったが、恐怖心が和らいだわけではない。一人でいるのが嫌なのだろう。
ただ、QRコード一つにつき、一人しか使えないとわかった今、固まって行動するより各自で行動した方がいい。が、加藤ダイキの死体のてまえ、伊藤タクヤと離れて行動するのがためらわれた。自分の知らないところで、友達が死ぬのがとても怖かった。
「ああ、行こうぜ」
「ところで、なんで楠原を探してるんだ?」
馬鹿正直に答える必要性はないと感じ、
「……鮎川に頼まれたんだ」
「ふーん」
とくに執着することなく、それ以上訊かれることはなかった。
二人は、一階を回ることにした。
結局、一階には楠原ミユウはいなかった。
QRコードについては、美術室の黒板下と保健室のベッドの下に見つかったが、すでに使用されていた。
「次は二階だな」
「その前に、塩原たちの様子を見ておきたい」
塩原アヤカと鮎川ミレイ、そして踊り場の三人の死体についてはすでに説明していた。
そのとき、忌まわしき声が校内に響き渡り、二人の足を止める。
「運良く、先ほどの爆発に生き残った君たち、おめでとう」
モイが再び放送しているのだ。また放送室に戻ったのだろうか。それとも、別の場所で放送しているのだろうか。
状況にそぐわぬ、覇気のない声で続く。
「えーでは、残念ながら死んでしまった生徒をこれから発表する」
その言葉に、空気の色がいちだんと冷たくなった。
佐々木タクヤの心臓がどくんと跳ね上がる。
ごくり、と隣にいる伊藤タケルの生唾を飲みこむ音が聞こえたような気がする。
「出席番号1番 安宅ケイイチ……」
出席番号順にクラスの名前がつぎつぎと呼ばれていく。佐々木タクヤの脳裏にその生徒の顔が浮かんでは、血しぶきを散らしながら爆発して消え去っていく。
「……小野モナカ、出席番号8番 加藤ダイキ……」
出席番号9は楠原ミユウだ。浮き足立つ鼓動に吐き気がする。呼ばれないことを切実に祈った。
「出席番号10番 近藤イサオ」
ふっと脱力感を感じ、腰が崩れ落ちた。意中の人がまだ生きていることを確信し、安堵がこみ上がってきたのだ。
「タクヤ、お前もしかして……いや、今はおちょくってる場合じゃないか」
佐々木タクヤの様子に、何かを察したらしい伊藤タケルだが、ふたたび意識を放送に向ける。
それから教室で見た田中ミチル、踊り場に頽れた三人の名前が読み上げられていった。
死者は十二人だ。
「えーそれから、すでにクリアしたものは五人。その者たちは自由に過ごしていい。むろん、ゲームが終わるまでは外に出てはダメだからな。ではまだクリアしていない二十三人はせいぜい頑張るように」
まるでテストの点数が悪かった生徒を諭すような言い方だった。
「次は、二十分後、再び十人の首を吹き飛ばす」
その宣告を最後に、放送は途絶えた。
「ちんたらしている場合じゃないな」
「ああ」
次の爆発に、再度自分が助かる保証はない。
二人は急いで二階へと上がっていった。
塩原アヤカと鮎川ミレイはコンピュータールームにいた。
鮎川ミレイは先ほどと比べ、いくぶんの落ち着きを取り戻したようだ。
佐々木タクヤらに気づき、顔をこちらに向ける。
椅子から立ち上がり、塩原はこちらに近づくと、鮎川ミレイを残して二人を部屋の外に連れて行く。
「ごめん、思い出させないよう、鮎川さんにはあまり話を聞かせたくないの」
「ああ、わかった」
「それで、どうだった?」
「結局、楠原は見つからなかった」
「私が訊いたのはQRコードのことだったけど……そう、どこにいるのかしらね。鮎川さんのためにも、楠原さんには彼女のそばにいてほしいわね」
「塩原と鮎川はもうクリアしてるんだっけ?」
横から伊藤タケルが口を挟む。
「ええ。でも、私はまだクリアしていない人たちのためにQRコードを探しに行くつもりよ。でも、鮎川さんの容体が心配だから、一人にしておくわけには……」
「私は大丈夫よ」
顔を向けると、いつの間にか鮎川ミレイがすぐそばに来ていた。
「一緒に校内を探し回るのは無理だけどね」
「本当に、大丈夫なの?」
「ええ」
言葉とは裏腹に、表情はいつもの明るい雰囲気がすっかり抜け落ち、不安と恐怖に彩られている。
心配だが、塩原アヤカにしてもまだ生き残っているクラスのみんなの助けるために奔走しなければならない。
「わかった。じゃあ、行くね」
「それと、お願いだけど……」
不安そうに拳を握りしめた手を胸に寄せ、切実そうに言った。
「ミユウを見つけたら、私がこの部屋にいることを教えてね」
「わかったわ」
その頼みに、塩原アヤカは優しく答える。隣にいる佐々木タクヤも強くうなずいた。
鮎川ミレイが奥に去って行くのを確認し、コンピュータールームの扉を静かに閉める。
塩原アヤカは二人に体を向け、
「探したけど、コンピュータールームにQRコードはなかったわ。早く行きましょ」
三人は足を進めた。
むやみに校舎を探索し続けるのは辛かった。
QRコードが見つからないという精神的苦痛もあるが、なにより今日の放課後まで楽しく笑っていた級友の死体が目に入ってしまうことがなにより胸をえぐられる。
女子トイレの中を探しに行った塩原アヤカが、青ざめた表情で戻ってきた。
聞かなくても理解できた。おそらく誰かが、恐怖におびえトイレにこもりっぱなしでいたところ、首が爆発して死亡していたのだろう。
放送室を再度見たが、モイの姿はなかった。これであの陰惨な担任は、違う場所から放送していることを確信した。
「二階は、あとは体育館を残すのみね」
「広いから、探すのに苦労しそうだぜ」
「次の爆発まで、十分を切っている。急ごうぜ」
足を進めるにつれ、三人は眉をひそめた。
体育館から、ダム、ダムと小気味よい音が聞こえてくるのだ。
バスケットボールの音だった。
この状況下、誰かがバスケットのシュートの練習をしている。
おそるおそる、佐々木タクヤが体育館の扉を開ける。
三人が目にしたのは、ボサボサ髪の中年男が一人、シュート練習をする姿。
モイだった。
しばし、佐々木タクヤたちは声が出せなかった。
この理不尽で残酷なゲームを仕組んだ人間。その男が、のんきにバスケットをしている。
「……て、てめえ……いったい、なんのつもりだ!」
呪縛が解けたように、伊藤タケルが動き出した。
その声に、モイは手を止めて、やおら顔をこちらに向ける。
「やあ、君たちか。暇だったから、すこし遊んでいたんだよ」
バスケットボールを指の上でくるくると回そうとするが、うまくいかずに落ちて、ポーンポーンとむなしく響く。
塩原アヤカは目を大きく開け、固まってしまう。同じ人間とは思えなかった。
伊藤タケルは呆れを通り越して怒りが爆発寸前だった。佐々木タクヤも同じ気持ちだ。
二人は一直線にモイへとかけだした。
もはや今は捕まえて事情を問いただすよりも、顔が潰れるまで殴りたい思いでいっぱいだった。
その様子にモイは逃げるのではなく、ふっとため息をついた。
近くに置いてあった鞄に腰をかがめ、タブレットを取り出し、何やら操作をする。
とたん、二人に衝撃が走り、のけぞるように崩れ伏す。
何が起こったのか即座に理解できなかったが、どうやら首がぐっと絞まる感触がしたのだ。
このような生徒の管理を、モイは自在にできるらしい。
二人は詰まった喉に悶え、ぜえはあぜえはあと呼吸を整える。
「QRコードは見つかったか? まだクリアしていないのになに悠長なことをしているのだね」
宿題は終わったのか? まだやっていないのになに悠長なことをしているのだね。
まるでこのような言い方だった。できの悪い生徒を叱りつけるような顔で見下ろす。
佐々木タクヤと伊藤タケルの目は、射殺すかのようにモイをにらみつける。
「どうして……どうして、こんなことをするのですか!」
後方にいた塩原アヤカが涙ながらに叫ぶ。
「いったい、何人が死んだと思ってるんですか!」
やおらモイは手を顎に添えると、
「うーん、さっき放送で言ったはずなんだけどなあ。先生の言葉を聞いていないとは、感心しないなあ」
「ふざけないでください!」
感情が沸点に達したのか、塩原アヤカの頬に一筋の涙がこぼれ落ちる。
モイは、ボサボサ髪を無造作に掻きながら、
「まあ、クラス委員長の君には、うるさい生徒どもをなだめてくれたりといろいろお世話になったから、その礼として教えてあげるよ」
バスケットボールを拾い上げ、不細工な格好でシュートをする。リングに入るのを期待するのが馬鹿馬鹿しくなるほど、てんで違う方向へと飛んでいった。
ちっ、と舌打ちしてから、モイは塩原アヤカのほうに体を向ける。
「いいか、これはお偉いさん方から頼まれたゲームだ」
モイの説明が始まった。首が絞まった衝撃に、ようやく立ち直った佐々木タクヤと伊藤タケルも耳に意識して聞く。
「暇を持て余したお偉いさん方が、刺激的なゲームを求めている、と。そのゲームを開催してくれたやつには、莫大な報償を用意するらしい。金に困っていた俺は、ちょうどその話を聞きつけて、その方たちのところへ詳しく伺いに行ったよ。ゲームの題材は”人が命を求めて抗うもの”だそうだ。道具はこちらで用意するから、プレイヤー、舞台、ルールはそちらで決めてくれ、と。俺は一も二もなく了承したよ。プレイヤーはすぐに思い当たったからね。この学校を舞台にするため校長と子細を語らないようにして懇願ときは難儀したが、ルールを考えるとき俺自身も少し楽しんだよ」
当時を思い返すように、くっくっと昏く笑う。
「先日の身体検査のとき、君たちのクラスだけなにか奇妙なことをやらされなかったかい。そのときに脛骨あたりにチクッとした痛みがあっただろ。そのときにチップを埋め込んだんだ」
「もういい……」
「校内の至る所にカメラがあったことに気がつかなかったかい? 今まさに、お偉いさん方がワイン片手にリアルタイムで君たちを――」
「もういいって言ってんだろ!」
佐々木タクヤは歯を食いしばり、目を血走らせて立ち上がる。血液が沸騰するくらいの激情が暴れ回っていた。
「お前がくずだってことはよくわかった! 今この場で、お前を殺し、このゲームを終わらせてやる!」
激しく足を踏み出し、佐々木タクヤは襲いかかりにく。
「諦めの悪やつめ……」
醒めた目で見つめながら、モイは再び操作する。
「ぐっ!」
首への二度目の激痛。頽れそうになるが、脳裏に死んだ級友たち、泣き伏す鮎川ミレイ、未だどこにいるのかしれぬ楠原ミユウが思い浮かぶ。
体のバランスを失うが、それでも体は前へと突き進んでいた。
「なっ!?」
そこで初めてモイの目に焦燥の色が浮かんだ。
佐々木タクヤの腕が伸び、モイの肉の薄い首を掴み、締め上げ――
そのとき、佐々木タクヤの腹に衝撃が走った。
モイが腹を殴りつけたのだ。
「俺は人をいたぶるのは好きだが、こうやって直接殴るのは嫌いなんだ。だってそうだろ、手が汚れるからだ」
これにはたまらず、佐々木タクヤは崩れ落ちた。
「タケル!」
「佐々木くん!」
伊藤タケルと塩原アヤカが駆け寄ってくる。
その様にモイはせせら笑うように見つめ、
「ゲームマスターにはむかってきたことは赦せないが……その気概を評して、一ついいことを教えてやろう。倉庫においてあるバスケットボールの山のどれか一つに、QRコードを貼り付けてある」
腕時計に目を落とし、
「次の爆発まで五分切っている。運がよければ、お前たち二人のうちどちらかが助かるな」
その言葉を残し、モイは体育館を去っていた。
その後ろ姿を襲うことは誰もできなかった。
次の爆発まで残り五分。
底知れない敗北感に打ちのめされながらも、佐々木タクヤはこのまま床に伏し続けるわけにはいかない。
三人は胸の内にわだかまるものを抑えながらも、意識を今しなければならないことをに切り替える。
倉庫に入り、バスケットボールが積み上げられている山が目に入る。
十数個ぐらいか。
「この中のどれかに、QRコードがあるのか」
「とにかく、探さないと」
自然、己の命がかかっている佐々木タクヤと伊藤タケルの語調は張り詰めていた。
塩原アヤカも不安そうな面持ちを隠しきれていない。
三人は山に近づき、一つずつ確認していく。籠に戻している余裕はなく、確認し終えたボールは遠くへと放り投げる。
どこにも見つからず、胸に焦燥感が募る。
そして、最後の一個を確認しても、どこにもQRコードが貼られていなかった。
やにわに絶望感が襲いかかってくる。
「くそっ! あいつ、騙したんだ!」
伊藤タケルは激しく打ち震える。モイへの怒り、カウントダウンが迫る恐怖が制御できないでいるようだ。
塩原アヤカが体育館の時計を顧みる。
午後七時二十九分。
一分を切っていた。
何もできないでいる悔しさに、小ぶりな唇を強く噛みしめる。
だが、二人と違って、佐々木タクヤは落ち着いた表情だった。
「たしかに嘘ついていたけど、あながち間違いじゃない。あの作業のおかげで、見つかったぜ」
はっとしたように、佐々木タクヤに視線を向ける。
「うずたかく積み上げられた状態だったらわからなかったが、ボールをどかすことで……籠の底にあるQRコードが発見できたんだ」
駆け寄り、先ほどまで自分たちが突っ立ていた籠の底へと目を落とす。
緊迫の状況下、救出しにきてくれたかのように、一つのQRコードがあった。
「やった!」
伊藤タケルがポケットからスマホを取り出し、そそくさと読み取ろうとする。
その寸前で、気がついた。絶望から希望を見いだしたことで、瞬時には思い当たらなかったが、QRコードは一人につき、一回なのだ。
すなわち、佐々木タクヤと伊藤タケルの両方が助かる見込みはない。
最初に見つけたのは佐々木タクヤだ。なので、彼が使用するのは最もだろう。
頭ではわかっていても、伊藤タケルは譲る言葉を口にすることはできなかった。
眼前で加藤ダイキの死を見たからだ。
先ほどまでしゃべりあっていたかと思うと、急に目を見開き、首元の血管が膨れ上がり、おぞましい爆音で肉塊が吹き飛ぶ。
恐怖心が、自分が助かりたい気持ちを強く促進させる。
スマホを握る腕に冷や汗が浮き出る。
このまま佐々木タクヤより先越せば、確実に伊藤タケルは死ぬことはない。
府抜けた精神が、スマホをQRコードへと近づける。
そのとき、その腕を佐々木タクヤがしっと掴んだ。
やばい、と感じ、捕まれた腕を振り払おうとしたとき、
「なにやってんだ! 早く読み取れよ!」
予想とは裏腹に、なんと腕を引っ張り、画面にQRコードが収まる位置へと持って行った。
「な、お前……っ!」
伊藤タケルは驚愕に目を見開く。固まったように動かない彼に、佐々木タクヤはいらだったように、横からスマホを操作する。
理解できなかった。今、佐々木タクヤがやっていることは、自分の命を犠牲にして、伊藤タケルを救おうとしているのだ。
みるみるうちに作業が進んでいく。
「あっ……」
ようやく硬直から解放された伊藤タケルだが、そのときには終わっていた。
”出席番号3 伊藤タケル クリア”
そして、時計の針は午後七時三十分を示した。
突如、佐々木タクヤの体が、大きくバランスを崩す。
伊藤タケルと塩原アヤカは声ならぬ声を上げた。
目の前で繰り広げられる、凄惨な死。
が、二人が血の気を引きながら予想していた事態は起こりえなかった。
ふらついた足は、そのまま前へ踏み出し、倒れるのを阻止する。
そして、一秒、二秒と時間は流れた。
「え……」
忘我の声を上げる伊藤タケル。
塩原アヤカは目をパチパチとしばたたかせる。
その様子を見て、佐々木タクヤはゆっくりと息を吐いた。
「どうやら、今回も生き残ったようだ」
安堵から、糸が切れたように塩原アヤカはふにゃふにゃと座り込む。
ははは、と伊藤タケルの口から乾いた笑いが漏れ出した。それから、佐々木タクヤに近づき、バンと背中を強くたたく。
「お前、心配したじゃねえかよ!」
「ごめん。急に、頭がくらっときて」
たたかれた背中を痛そうにさする。
そんな彼を見て、さらに言葉が募る。
「お前、余計なことすんじゃねえよ! なんで俺に譲ったんだよ!」
「助かりたいと思うと同時に、お前を助けたいという気持ちもあったんだ。それでもグズグズしてたら、二人とも死んじまう。そう思ってたら体が勝手に動いてたんだ」
「お前……っ! それでお前が死んでたら、俺はお前を殺してたからな!」
そんな二人の様子に、塩原アヤカは泣きそうな表情になっていた。
緊迫していた空気が和らぐ感じがする。
が、無論、それはつかの間だった。
ぎゃーと身も世もない悲鳴が遠くから聞こえる。
佐々木タクヤは助かったが、生徒が十人死んだのは確実だった。
「行こう!」
三人は、がらんどうの体育館を後にした。
血なまぐさい空気が、階段上から感じる。
三階途中の踊り場に、二つの新たな死体ができあがっていた。
クラスでも有名だったカップル、矢野ミツルと林ヨシエ。
死後も共にいられるよう、首のない胴体は愛おしく抱き合っていた。
心の中で手を合わせて悼み、三人は上へと進む。
自分らの教室の階へと戻ってきた。
「2-A」の教室前にはまだ田中ミチルの死体が転がっていた。
QRコードがないとわかっていながらも、教室内へと踏み入る。
授業は退屈だったが、今日の放課後までは居心地のよかった場所。今は赤黒い恐怖に塗り固められている。
ふと佐々木タクヤは、一つの机を見つめる。
楠原ミユウの席だ。
彼女は今、どうしているのだろうか。
不安で押しつぶされそうにながらも校舎を駆け回っているのか。
それとも……。
そのとき、三度目の忌まわしき放送が舞い降りる。
「えー、では再び死亡した生徒を発表する」
我知らず、佐々木タクヤの全身が力む。
「出席番号4番 宇月カエデ……」
前回、呼ばれた生徒は飛ばしていくようだ。
「……出席番号15番 瀧コウタ……」
楠原ミユウはまだ生きているようだった。内心でひっそりと安堵を抱く。
その後も名前は続いていった。
「……矢野ミツル以上。そしてクリアしたものは八人。一応名前を読み上げておくか、面倒くさいが。出席番号2番 鮎川ミレイ。出席番号3番 伊藤タケル。出席番号12 塩原アヤカ。出席番号22番 中川ユウト。出席番号25番 橋本リト。出席番号27番 平塚ミライ。出席番号32番 増田ホタル。出席番号38番 最上アイ。出席番号40番 渡辺ハヤト。残るは十人の生徒だ」
楠原ミユウはまだクリアしていないようだ。佐々木タクヤは、改めて未クリアの者の生徒を頭の中で確認する。
出席番号9番 楠原ミユウ
出席番号11番 佐々木タクヤ
出席番号13番 鈴木ジョウタ
出席番号14番 外山ワタル
出席番号20番 富永リナ
出席番号23番 中野ユウキ
出席番号24番 西村カズト
出席番号28番 古川コウタ
出席番号34番 三村マサオ
出席番号35番 宮川エリナ
「なお、午後八時、クリアしていない者は全員、首を爆発させることにする。これでゲームは終了だ」
これまで、運命の気まぐれのおかげで、二度の爆発を免れたが、今度は無理なようだ。
時計を見ると、現在午後七時三十五分。残り二十五分だ。
いちはやく足を進めようとしたとき、モイの声調がすこし陰惨味を帯びてきた。
「……で、残念なお知らせだが……未使用のQRコードは残り五つだ」
なんということだ。佐々木タクヤは目を見開く。これでは、今生き残っている人の半分は確実に死ぬことになるではないか。
「そこで、君らにはチャンスを与えようと思う。現在クリアしている八名、彼らの首筋を写真に収めれば、クリアしたことになる。クリアした者の首筋あたりにあるチップは、目に見えない特殊な電波が発生しており、それをスマホで写真として収めるんだ。ただし、わかってると思うがQRコード同様、一人につき一人だ」
三人は目を合わせる。絶望に押しつぶされそうになった表情が少し和らぐ。
今この場に居合わせる者でクリアしていないのは佐々木タクヤのみ。伊藤タケル、塩原アヤカのどちらに写真を撮らせてもらえばいい。
クリアした者に比べ、未クリアは二人多いが、彼らはQRコードを探し当てればよい。佐々木タクヤたちも手伝う心づもりだ。
「じゃあタクヤ、俺の首筋を撮ってくれ」
伊藤タケルが後ろを向いて、うなじあたりを見せてくれる。
そのとき、身の毛のよだつ、おぞましい言葉が降り注いだ。
「――ただし、首筋を撮られたやつの首は爆発する」
佐々木タクヤのスマホを取り出そうとした手がぴたっと止まる。
「つまり、未クリア者は、クリア者の命を奪うことによって助かるんだ。数少ないQRコードを探すのもよし、安心しきってそこらへんでぶらぶらしているやつらを見つけ出すのもよし。……まあ、どちらが探し当てるのが楽か、言うまでもないがな。では残り少ない時間、せいぜい頑張るがよい」
ぷつり、と悪魔の声をしたモイの放送は途切れた。
より絶望に変わったゲーム。そして、佐々木タクヤは気づいた。今回のルールだとすでにクリアしたものの方が危険に晒されているということに。佐々木タクヤは二人の方を向いた。
二人は当惑した様子だった。
彼らは協力する立場だったはずが、命を狙われるターゲットへと切り替わる。
現在の構図はどうか。狭い教室内に、獲物二匹を前にした獣の自分。
むろん、死ぬとわかった今、彼らの首筋を撮るわけがない。そこで、自分の右手はいまだスマホを握っていたままだったことに気づく。慌ててポケットにいれた。
その様子を見ていた伊藤タケルと塩原アヤカは、だが佐々木タクヤの予想とは裏腹に、どこか呆れかえった目で見つめていた。
「佐々木くん。もしかして私たちが、あなたに対して危機感を抱いてると思ってるの?」
「……え?」
「佐々木くんがそんなことをする人間じゃないってわかってるわ。私たちが考えていたのは、どうすれば全員が助かるのかってことよ」
「そもそもお前がその気なら、体育館の倉庫で俺に譲ったりしないはずだからな」
二人が自分を信用してくれていることがわかり、少し気恥ずかしくなった。同じ教室にいるだけのただの級友だったが、いつの間にか多大な信頼を得ていたのだ。
「……そう、か。ありがとな」
「なんで、そこでお礼の言葉が出てくるのよ」
「とにもかくにも、まだ有効なQRコードを探さないとな」
三人はうなずき合う。これ以上犠牲を出さないよう、全員が助かる方法があるはずという思いを胸に抱いて。
そのとき、起こってはいけないはずの事態を想像させる、身の毛のよだつ悲鳴と爆音が四階から聞こえた。
ーーーーーまさか

佐々木タクヤは走った。
人が死んだことを、場に漂う空気から感じ取れるようになっていた。
先の悲鳴は聞き間違いであってくれと願ったが、四階に上がったとき、佐々木タクヤは確信する。
延々と伸びる廊下の先に、一人の男子生徒が突っ立っていた。
外山ワタルだ。
体の向きは反対なので表情はわからないが、背中が小刻みに震えていた。
かすかにブツブツと何かをつぶやいていた。
佐々木タクヤは振り返り、伊藤タケルと塩原アヤカに目を合わせる。
二人の目は無言で注意するようにと伝えていた。
「……ワタル」
佐々木タクヤが声をかけると、こちらが驚くほどの勢いで振り向く。
落ちくぼんだ両眼にまくれ上がった唇。ようやく見えたその表情は……笑っているのだろうか。
浮き出た頬骨がかすかに振動している。
三人が最初に見て驚いたのはそこではなかった。
外山ワタルの右頬には、血糊がべったりとついていたのだ。
「……だって、しかたないだろ?」
ダミ声が、外山ワタルの声から発される。会話の前後が不確かな言葉だが、理解するのは今この場における状況だけで十分だった。
強気で振る舞うが内心は気弱な性格であるはずの彼。とっさに信じることはできなかった。
「ワタル、お前……!」
佐々木タクヤは詰め寄るように、駆けだした。
外山ワタルは「ひぃっ」と怖がるように後ずさる。
ひどい歪んだ形相をしていたからだろう。このとき、外山ワタルに近づいて糾弾するのか、殴ろうとしたのか自分でもわからなかった。ただ、起こった事の真偽を確かめたかったのは間違いない。
腕を伸ばせば届きそうな距離まで近づいたとき、ふと横にある教室に意識が向く。
本校の四階は一年生の教室が並んでいる。彼らはとっくに帰宅している。
「1ーB」の教室はがらんどうだった。おのずと足を踏み入れ、室内に入っていく。
が、窓際の机と椅子が散乱していた。
自然と、視線が掃除用具入れへと向かう。その真下の床は赤黒い鮮血が滴っていた。
佐々木タクヤは、そこで立ちすくんでしまう。
外山ワタルが、事を行った後、そこに隠したのだろう。
扉を開けて確認したいという欲求と、それにより最悪の事態が起こってしまった現実から目をそらしたい気持ちが佐々木タクヤを襲う。
いつのまにか、背後に伊藤タケルと塩原アヤカの二人もついてきていた。
そのとき、モイの声が校舎に響きわたる。
「出席番号14番 外山ワタル、ゲームクリア。出席番号27番 平塚ミライ、死亡」
周囲の空気が凍りついたように、痛いほどの静止が舞い降りた。
ゆっくりと視線が、教室の外にいる外山ワタルへと向けられる。
彼は、たじろぐように体をぶるっと震わせた。
「何だよ、文句あるのか! 俺は……っ、俺は……!」
次の瞬間、いたたまれない雰囲気に耐えきれなくなったのか、叫びながら廊下を走り抜けて去って行った。
塩原アヤカが顔を覆い、しゃがみ込む。クラスみんなが協力すれば助かる事を信じていた彼女にとって、まさに裏切られた気分だった。
伊藤タケルは、血まみれの床にたたずむ、掃除用具入れから視線を外すことはできず、呆然としていた。彼とて、受け入れがたい事実にどう対処すればあぐねている。
「このルールのあくどいところは……」
佐々木タクヤの声に、重く沈んだ空気が細かく震える。
「直接、鈍器などで殴るわけではないから、罪悪感が薄れるんだ。あまつさえ、多数の級友たちの死に感覚が麻痺している。この事態は、もはや想定できる域だったのかもな」
二人は聞いているのか聞いていないのか、なんら反応を示さない。
ところで、モイは、あえて先のように放送しているのだろうか。
外山ワタルが、平塚ミライを殺したという事実を、厳格に伝える。たとえクリアして救出されても、今後その事実は重くのしかかっていく。
「とりあえず、ここから出よう」
やがて伊藤タケルは、二人に向き直り、次の場所を促す。
窓の外は、暗い夜の帳が降りている。分厚い雲が星明かりを覆い隠す。佐々木タクヤらがいる校舎を明るく照らすものはなにもなかった。
彼らは決して他の彼らを責めることはできないのだ。それは他の彼らが彼らに対しても。何をしてもこの非日常な空間に飲み込まれる。法もモラルもすでにそこには無用の産物と成り果てていたのだ。
四階をすべて見回り終えても、新たなQRコードは見つからなかった。
探したといっても、制限時間が限られているため、部屋の隅々まで注意を向けることはできなかった。
いくつかは見逃したに違いない。
伊藤タケルがクリアするのに使用した、倉庫内にあったバスケットボールの籠の底というような、手数がかかるポイントならお手上げだ。
最後の教室をでたとき、渡り廊下の向こう側に二つの人影が目についた。
中野ユウキと西村カズトだ。たしか二人はまだゲームクリアしていなかったはずだ。
向こうもこちらの存在に気づいたようだ。
趣味が広く弁も立つ中野ユウキと、斜に構えた態度で寡黙な西村カズトは、性格は対照的だが小学校からの幼なじみということがあり仲のよい存在だった。
彼らは渡り廊下を歩いてきており、佐々木タクヤも近づこうとしたが、制服の袖口をぐっと引っ張る力があった。
振り向くと、塩原アヤカが神妙な顔をしていた。その様子に伊藤タケルも気づき、足を止める。彼女は中野ユウキらに聞こえないような小声でつぶやいた。
「……ちょっとあの二人、どこかおかしくない?」
「え?」
二人が怪訝に思ったとき、中野ユウキが声を発した。
「やあ。タクヤ、タケル、それに委員長」
いやに、ゆったりした声だった。ひょろ長い背に、色白の肌。大きめの瞳は、長めの前髪の影が落ちている。如才ない雰囲気をまとう彼は、にやついた笑みが貼り付けられており、表情は妙に落ち着いていた。
隣の西村カズトの図体は大柄だ。柔道部で鍛え上げられた筋肉は分厚く、角張った輪郭の顔立ちは威圧感が伴う。表情に乏しい彼だが、どことなく落ち着いた様子だった。
正確に言えば、先ほどまで少し焦りが見えていたが、こちらの存在に気づいたとたんに平静を取り戻したように見える。
「いやあ、君たちと会えて良かったよ。ずっとカズトといたんだけど、二人だけだと不安だったからさ」
中野ユウキは、へんに廊下全体に響くような大声でしゃべりだす。
「QRコードは見つかったかい? もしそうなら、教えてほしいんだけど」
「いや。探したけど、見つからない」
「そっか、残念だな……」
言葉とは裏腹に、表情はそんな気配がみじんもない。
「ところでさっきの放送、聞いた?」
むろん、外山ワタルのことだろう。
「……ああ」
「いやあ、度肝を抜かれたよね。男気がないやつだと思っていたのに、やるときにはやるやつなんだねぇ」
近づくにつれ、中野ユウキの両目が昏い輝きを帯び始める。
その目の焦点がタクヤの背後にいる伊藤タケルと塩原アヤカに移った。まるで肉食獣が獲物を捕らえたかのように鋭くなる。
「そういえば、タケルと委員長はすでにクリアしたんだよね」
「……ええ、そうよ」
「そうだよね。ねえ、クリアしたら、やっぱりリラックスできるの? 僕は心臓が張り裂けそうで苦しんだ。ゲームが始まってから、いつ死ぬのか不安で不安でしかたないんだ。今日の昼、明るく笑っていたやつの顔が、目を大きく見開いて床に転がっているのを見たときは、血だまりの床に吐瀉物をぶちまけたよ。自分もこういう目にあうんだって思うと、耐えきれなくなって。けどQRコードを探してもいっぽうに見つからないんだ。こんな気持ちのままでは、首がつながっているかいないかの違いだけで、死んでいるのと変わらないよ。でもさ、そんな死人に、ふたたび生き返らせるチャンスが巡ってきたとしたら、彼らはどうすると思う?」
呼吸が荒くなるにつれ、言葉が早くなっていく。
もはや、疑う余地はない。狙いは伊藤タケルと塩原アヤカだ。
この状況下、外山ワタルと同様、倫理観がごっそりと奪われてしまっている。こちらがどう言葉を繕っても、衝動を抑えつけることは不可能だろう。
隣の西村カズトは鼻息が荒くなり、興奮のためか、喉からぐうと獣のような唸り声を発している。
お互いの距離は縮まってきている。渡り廊下を歩き終えたとき、モイが宣告した時間より早いタイムリミットだ。
背後は、先ほど出てきたばかりの教室だ。
逃げ道は二つ。左手側、一年生の教室が並ぶ直進の廊下を進んだ先の北階段。右手側、すぐそばにある南階段。
南階段に走ったとしても、運良く佐々木タクヤと伊藤タケルが逃げ切れたとしても、女子の塩原アヤカは追いつかれる可能性がある。
佐々木タクヤと伊藤タケルが二人で協力して襲いかかっても、西村カズトに力で勝つことはできない。体育の授業の柔道で一度手合わせをしてもらったことがあったが、あっけなくやられた。
「……こうなったら、ちらばるんだ。俺が合図したら、動いてくれ」
佐々木タクヤが、伊藤タケルと塩原アヤカにしか聞こえない声でつぶやく。
中野ユウキらとの距離は五メートルをきった。佐々木タクヤは緊張を悟られないように、慎重に口を開く。
「なあ、実はこのゲームについて、一つだけわかったことがあるんだ」
「ほう、なんだ」
歩みは止めないが、話は聞いてくれるようだ。
「1年B組の教室の掃除用具入れに平塚の……その、なんだ、死体があったんだ。首が飛び散っていたよ。で、そのとき偶然、血だまりから見つけたんだ。何だと思う?」
もったいぶるような話し方に、だが、中野ユウキはとくに苛立つことはなかった。
「なんだ?」
「俺らの頸部に埋められているチップさ。ワタルが平塚を掃除用具入れに運ぶときに、どさくさで落ちたんだろう。で、このチップを拾い上げて調べてみたら、このゲームにおける驚くべき秘密がわかったんだ」
佐々木タクヤは、ブレザーのポケットに手を入れる。
「で、そのチップを持ったままなんだけど、見たいか?」
二人はこくりと頷く。話にはうまく食いついてくれているようだ。
佐々木タクヤが手を差し上げようとしたときだった。視線が中野ユウキと西村カズトの後方に移り、大きく目を開き、驚愕の表情となる。
「……モイ、てめえ、なんでこんなところにいるんだっ!」
その言葉に、二人は後ろを振り向く。まさか、佐々木タクヤがゲームの秘密をばらすことを阻止しに来たのか。
しかし、後方には誰もいなかった。
「おい、いねえじゃ……」
気づいたときには遅かった。モイがいると言ったのは、中野ユウキらの注意をそらすためのフェイクだった。逃げるための時間を稼ぐのに、一瞬だけの気のそらしでよかったのだ。
塩原アヤカは南階段へ、伊藤タケルは北階段へと突っ走っていく。
そして佐々木タクヤは、中野ユウキらを目がけて迫ってくる。その右手は、なにも握っていない。むろん、ゲームの秘密を発見したということはおろか、チップを拾い上げたことも見つけたということも嘘だった。
「てめえ、謀ったな!」
激昂する中野ユウキの痩せ細った体に、佐々木タクヤは体当たりし、押し倒した。
意表を突かれた衝撃に、中野ユウキは床に腰を打ち付ける。
佐々木タクヤは、優位の態勢のまま彼を組み伏せようとした。が、体が宙に浮き上がってしまう。
西村カズトが片手で首根っこを掴み、多大な膂力で持ち上げたのだ。
佐々木タクヤはじたばたともがいて離れようとする。そのとき、腹にとてつもない衝撃が走った。
「ぐっ!」
体が大きく後ろに吹っ飛ぶ。柔道部の、あの丸太のように太い腕で全力で殴られたのだ。金属バットでも打ち付けられたかのように、鈍く痛む腹を押さえ、苦しげにうめいた。
西村カズトがなおも襲いかかろうとする。
「おい、カズト。そいつに構うな、時間がない」
いつの間にか立ち上がっていた中村ユウキが、制止の声を投げる。
うずくまる佐々木タクヤを侮蔑の眼差しで一瞥した後、冷淡な口調で言う。
「俺は委員長を追うから、お前はタケルを追え」
西村カズトはこくりと頷く。
佐々木タクヤの横を通り過ぎるとき、中村ユウキはその頬を思い切り蹴りつけた。
途方もない衝撃に、横の壁に体を打ち付ける。もし、蹴りがもう少し顎に近かったら、しばし意識を失って、制限時間を過ぎていただろう。
舌打ちを残し、二人が去っていく気配。
痛みにうめきながら、一方で、悲しみの念に打ちのめされていた。
殴られた、蹴られたという事実の方が精神に多大な衝撃を与えていた。二人とは、たまにプロレスの話で盛り上がったりしたものだ。命がけの状況だからといって、級友に裏切られたのが辛かった。
楽な態勢に、ゆっくりと呼吸を整える。
塩原アヤカと伊藤タケルは、うまく逃げてくれるだろうか。ゲーム終了まで、もう一度会うということはないだろう。
ともかく、佐々木タクヤ自身も、己の命のタイムリミットが迫ってきている。少し休んだら、屋上へ行ってみよう。
そのとき、床が剥がれているのに気づいた。今のどさくさに剥がれたのだろうか?中にはQRコードがあった。こんなところに隠すとは見つからないはずだ。だが、いまQRを読み込むとアナウンスで全員に知らされる可能性もある。もし撮るならゲーム終了直前にすべきか。佐々木タクヤはじっとしゃがみこんだ。
目だけを動かし、周囲の人影を確認する。
誰かがいる気配がない。あの二人も戻ってくる様子はない。
知覚の教室から時刻を確認する。
午後七時四十六分。
残り十四分だ。
おそらくこのQRコードは未使用なはず。
今し方の事の起こりから未クリアのほうが行動が制限されないことがわかった。
四方に切り取られた床を元に戻す。よく見ればわずかな隙間が生じており、爪を立てれば持ち上げることが可能だった。
正確な位置を記憶してから、佐々木タクヤは屋上へと向かった。
本校の屋上は基本、立ち入り禁止とされている。だが、鍵はかけられていなかった。
たちの悪い生徒が鍵穴にガムを詰め込む悪戯を行い、校舎側から施錠しようにも無理な相談だった。
もし誰かが屋上の内鍵を閉めたとき、そこは密閉空間となる。
屋上へと続く十段ほどの階段を上がる。
明かりは四階の廊下から照らされる電灯のみであるため、暗い翳りが舞っている。
ゲームが始まって探してない箇所はここのみとなった。
鉄扉の表面に貼られた薄汚い紙には「立ち入り禁止」と黒ペンで書かれていた。
鍵穴にはたしかにガムが詰められている。シャーペンや女子のヘアピンをどう駆使しても取れそうにない。
取っ手を握り鉄扉を開けようとしたとき、異変に気づいた。
鍵が閉まっていた。
今、屋上に誰かがいるのだ。
佐々木タクヤは恐る恐る近づいた。
楠原ミユウがそこには佇んでいた。どこか儚げな表情で。彼女は何をしようとしているのか。佐々木タクヤは目を凝らした。すると、足を出し、今にも飛び降りようとしていたのだ。
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