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冷たい心

8人が参加

私の心はとても冷え切っている。
周りが楽しいと思うことは、私にとっては何の価値も無いもの。
まるで氷のようだと、いつか誰かに言われた気がする。
それでも、私の心は冷たく冷え切っているのだ。
感情が人より鈍い私は小説やマンガなどではなく、科学誌を好むようになった。ネイチャーやサイエンスが愛読書だ。科学は感情などなくても理解できる。論理が明快で感情という感覚に頼る必要などさらさらない。
そんな私に近寄る人間はいない。
にぎわう教室内で、私の周りだけ別次元のようだった。
だれも私に気づいていない。私もだれにも関心を向けない。
ある日の朝、担任がいつもより早い時間に教壇に立った。
「さて、昨日もお話しした通り、今日は転校生がやってきます」
そんな話し合ったんだ。べつだん興味もなく、私はカバンから科学誌を取り出す。
私とは裏腹に、生徒たちの温度が上がっていく。「かわいい女子だったらいいな!」「やだ、男子ったらすぐそういう考え」「だまれブス!」
パンパンと手をたたくと、担任がドアのほうに顔を向ける。
「それでは、入ってください」
ドアを開く音が、朝の教室に響く。
どうせ、有象無象に、一匹増えても変わらない。
そう思っていた私だが、なぜか新しくやってきた彼に目が引き付けられた。
周りの男子から「ちぇっ」と舌を飛ばす音。
女子も近づきがたい雰囲気を醸し出す。
教壇に立ったのを確認すると、担任は「それでは自己紹介をどうぞ」促した。
彼はじつにぼそぼそとした声で名乗った。
「――です」
担任は明るく手をたたく。それで周りもいやいやな感じに拍手する。
なぜ私の目が彼に引き付けられたのかわからない。
わかったことといえば、彼の目がとにかく冷え切っていたことだ。
すぐにわかった。

ーーーーー同類だ。
一週間が過ぎた。
私は教室に入り、いつものようにそそくさと自分の席に向かう。その途中、つっと一つの机へと目をやる。その机にはでかでかと「死ね」という文字が書かれており、中央には花の入った花瓶が添えられている。
またか、とわたしはため息をついた。
その席は、転校生のものだった。
同じ学校に通い、同じ授業を学んでいるとは思えない、幼稚な行為。私はかかわりを持たないよう、無視を貫く。
席に着き、いつものようにカバンから本を取り出す。そのときちょうど、彼が教室に現れた。
くくく、と笑い声がそこかしこから聞こえてくる。
彼は自分の席を見下ろし、異常に気付く。反応をうかがおうと、生徒たちの視線が向けられる。が、とくに取り乱したりすることなく、平静を保ったまま彼は花瓶を教室後方のロッカーに飾るように置き、書かれた文字はそのままこともなげに着席する。
無反応に「ちぇっ、つまんねえの」という声がとぶ。
彼が転校してきてから、このような日々が続いていた。
彼はおそらく全てに絶望しているから傷つかないのであろう。
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