維新の男

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時代小説 妖怪

囲炉裏で暖を取っていた夜も、朝になれば痛むほど冷える。
 男は半纏を深く着込んで寒さに凍えた。
 「寒いな、次郎よ」
 男の隣で「鬼」が呟いた。
 袖の無い着物に額に生えた角。
 自分の身体はもう使えないとかなんだとかで「てめぇが死んだらその身体貰い受けるぞ」といつの間にか付き纏われていた。
 甚だ迷惑極まりない。
 時は幕末。時代の波が目の前まで押し寄せていた。
 だが、男にはあまり興味のないことだ。時代が変わろうがどうでもいい。
 傍らの打刀を左に差し、ゆっくりと腰を上げる。
 いくら浪人でも生きるために金が必要だ。いまの働き口が男の生命線と言っても過言ではない。
 「また襲ってくるやついねぇかなぁ。さっさと死んでくれよ」
 鬼が不気味に笑って言う。
 男は鬼の言葉を意に介さず、出入口の襖を音がするほど開け放った。外では雪が降り積もっていた。
男は古き都京都にいた。京都では最近物騒な事件が相次いでいた。天皇の意向を巡っての長州藩と会津・薩摩の争い。もちろん会津の背後には徳川の幕府が構えている。
男は昔の繁栄の面影を少し残す平安京の中にある店で旧友と会うことになっていた。旧友の方から熱心に会いたいと。ただ誰かにつけられていないか気にしてから来いと。怪しげな話ではあるが、旧友の頼みである。無碍にはできない。男には義理堅さというものもあったようだ。それはこの時代の朱子学の影響であろうか。
「おい次郎」隣を付いて来ていた鬼が口を開いた。
「俺とは違う鬼の気配がする。気をつけろ。てめぇの体は俺のもんだからな。他の奴に取られたらかなわん。」
「何を偉そうに」男は苦笑混じりに溜息を吐いた。
だが、そのとき男は妖気を感じた。男は鬼のせいで、妖気には人一倍敏感になっていた。
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