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新緑少女の独り言

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ファンタジー

私はオルミカ・ルミレ。
この深い森の中の屋敷で暮らす14歳の女の子です。
森の外の事は愚か森の中の事すら私には良く解らないのです。
私は10歳まではおばあさまと暮らしていましたがそのおばあさまが病気で倒れ、それ以来私は独りで生きていました。
おばあさまはとても優しかったけどこの周辺で生きる術以外の事は教えてはくれなかった…。
私も特にここが何処かとか知りたくもなかったから毎日弓を背負って兎や鳥を狩り、籠を手に木の実をもいで家に帰るを繰り返す日々。
こうして私は生きて、死んでいくのだと思っていた。あの日までは………。
いつも通りに木の実を採りに森の中を歩いていた時、一人の人間を目にした。
「これ……」
その人は長身だったけれど全身鎧に身を包んでいるからまだ見た事も無い男の人なのか、それとも女なのかも解らない。
ただその人は私の前方でうつ伏せになって倒れていた。片手を伸ばし、何かに触れる寸前で息絶えたかの様に。
急いで屋敷にこの人を運ぶことにした。私一人しかいないハウスに。応急処置も一通りおばあさまが教えてくれていた。だから、この人は助かるはずだ。私は一日中看病したんだ。
さすがに鎧ごと運んではいけないので四苦八苦して鎧を脱がせてから引き摺る様に家へ帰りその人をかつておばあさまの寝室へ運んだ。
とは言えかなり痩せていたので思ったよりは軽かった。何より……。
「この人、女の人…よね…?」
結論から言うと屈強な戦士と言う印象は無いとても綺麗な女性だった。
透き通る様な長い銀髪に白い肌、花びらの様な薄桃色の唇。
とても弱っていて包帯まみれの身体でも見惚れてしまう程彼女は美しかった。
この女性はどちらの人間なんだろう?この森は北に抜けるとノースアイス帝国があり、南に抜けるとサウスサンド公国がある。この森は迷宮のようになっていて、二つの国の緩衝地帯だ。自殺者はたまに来るが、この女性は鎧を身につけているし、そういった目的ではないだろう。
あれから5日が過ぎた。
この女性はまだ目を覚まさないでいる。
それでも私は看病を続けた。
なんだか、この女性とは初対面ではないと感じたからだ。
そろそろ服を変えた方が良いな…。
そう思い少しどきどきしながらかつてのおばあさまのお古の白いロングワンピースを手に寝室へと向かう。
「すいません…、お姉さん。」
一応声をかけてその身体を抱き起そうとした瞬間ぱちっと彼女は目を覚ました。
その瞳は澄んだ空の様に住んだ青い色だった。
彼女はしばし私を凝視したかと思うと信じられない、と言う様な視線を向けていたが。
「……オルミカ!!…会いたかった!!」
突然私の体を強く強く抱き締めて来たのだった。
私はビックリして後ずさりした。
「あ......。ごめんなさいっ!驚かせちゃって。そうよね。あなたは私を知らないものね、オルミカ。ついあなたに会えて嬉しくて。その......」
そのとき、グーという音がなった。話はご飯を食べてから聞くことにした。
「すみません、こんな物しか出せなくて」
「ううん、オルミカが作ってくれた物ならなんでも嬉しい」
「とても美味しいわ」
おばあさま以外と食事をするのは初めてで、私は少し緊張をしている。
「それでは、そろそろ話さないといけませんね。私の素性とあなたの生い立ちについて」

今から10年ほど前のことだった。私、オルレアはサウスサンド公国に住んでいたの。
そのころはまだノースアイス帝国なんかなくて、北のほうには小国が分立していたわ。その中でプロセン騎士団という組織が建国したノースアイス王国が台頭し始めたの。
ノースアイス王国は小国を吸収し急成長を遂げていたけれどその内情は不安定だったわ。
プロセン騎士団の団長である剣聖マルオンは人望が厚く聡明で慎重に政策を行っていた。
けれど副団長の竜騎士フィルスと獣騎士ギルード…。
彼らが常に対立していたのはノースアイスの大きな問題となっていたの。
私はサウスサンドからノースアイスに派遣されたスパイとして彼らの動向を探っていたの。そんな中、マルオンが死んでしまったの。そして、フィルスとギルードの権力闘争が表面化しだしたわ。一国の繁栄だけを主張するギルードは世界を征服してノースアイスの永続を主張するフィルスに敗れて、この大陸の東に位置する大倭列島の新興軍事大国である東秦皇国に亡命してしまった。
そして、フィルスは王を処刑し、自らを皇帝と称して独裁政治を始めたの。そして、帝国となったノースアイスは瞬く間に北大陸を統一して、森を挟んだサウスサンドの脅威になっていたの。
そのころ、私はノースアイスの将校といい感じになったわ。彼がウィンダムというのちに私の夫になる男よ。私はサウスサンドのスパイであるにもかかわらず、ノースアイスの軍人と恋に落ちてしまったわ。これがあなたも知っているサウスサンド公国・東秦皇国vsノースアイス帝国の世界大戦に結びつくことになってしまったわ。あなたが私のお腹から生まれたのはその数日前。
貴方を彼の自宅で無事に産めた事は本当に、本当に幸運だったわ…。
ノースアイスの軍師でもあった貴方を育ててくれたおばあさん、光の賢女ヴェリーナが産婆になってくれたのも安産だった理由でしょうね。
でもそこからが本当に大変だった。
……何故なら、貴方は剣聖マルオンの息子であるウィンダムとサウスサンドの王族である私、オルレアの血を引いていたのだから。
確かにこの頃には既にマルオンの威光は失われていたしサウスサンドが王国だった頃なんかずっと昔。
だから私の一族も現在は他のサウスサンドの貴族達と権限はそう変わらなかった…。
でも、それだけでは無かったの。
貴方にはこの世界の均衡を揺るがしかねない絶大な力を秘めていた。
その力はまだ言えないわ、ごめんなさい。ただ、その所有権を巡ってサウスサンドとノースアイスが名乗り出たの。そうあなたを巡って戦争が勃発しちゃったのよ。重い話をしてごめんなさい。
サウスサンドはノースアイス帝国と領土紛争をしていた東秦皇国に同盟を持ちかけたわ。そして、サウスサンド・東秦連合はノースアイスの首都ベルクワを占領したの。戦争の決着は見えてきた。しかし、そのときノースアイスは奥の手を使ってしまったの。あなたの力よ。あなたと私はノースアイスに囚われていたからね。
あなたの力は戦争の状態を一変させてしまったわ。ノースアイスが戦況を覆し、東秦に海を越えて空爆して降伏させ、サウスサンドの領地の半分を落としてしまったの。これを見た大陸西側に位置する大国ウェストスター合衆国はノースアイスによる世界秩序に危機を覚え、両陣営に和解することを提案したわ。
条件の一つ目は東秦皇国とサウスサンドの海外領地をノースアイスの植民地にすること。そして、もう一つはあなたの管理を両者中立の地であるこの森でおばあさんの元に任されるということよ。これで両陣営はあなたに手を出さなくなったはずだったの。
だけど、ノースアイス領東秦皇国で反ノースアイス・反ウェストスターの独立革命が起きてしまったの。そして、革命軍はあなたの存在を知り、切り札として手に入れるためこの森に来ようとしてるわ。私はあなたを無事に守り抜き、この森から永世中立国であるシーサイド共和国に連れていかなければならないの。そのためにここに来たの。しかも、狙っているのは革命軍だけではないかもしれない。一刻を争うの。準備をして明日にはここを出ましょう。
――――…カシャン!
私は思わずスプーンを床に落としてしまった。
「そ、…そんな事…嘘よ…!」
「そう思うのも無理も無いわ。でも本当なの。オルミカ。今は私を信じて欲しいの。」
そんなの受け入れられる訳がない。ぶんぶんと首を横に振るとおさげの三つ編みが揺れた。
「私、貴方とは全然似てないわ!髪の毛だって草みたいな緑色だしそんなに可愛くないし、普通の女の子よ!
それに絶大な力って何!?そんなの心当たりが無いもの!」
「それはおばあさま…ヴェリーナが貴方に強力で複雑な封印を施したからよ。…ねえ、オルミカ…貴方は…」
「いやっ!もう何も聞きたくない!」
私はパニックになってその場を走り去り気付けば屋敷の外に飛び出してしまった。
私はひたすら走った。考えることを考えないようにするかの如く。しかし、私は気がついた。いつもと森の様子が違うことに。動物たちの死骸がいつもより多い。しかも、それは人工的な。まるで何かを狩る最終調整かのようで身震いした。
「何…これ」
何がおきているのか、私には分からなかった。
ただ、此処に居ては駄目だということだけは本能的に感じた。
私は急いで此処から離れようとしたが、周りから動物達の叫び声が聞こえ、恐怖で動けなかった。
すると、周りから袴を着た男たちが出てきた。見慣れない花の模様が描かれた袴だ。五つの花弁を持つピンク色の綺麗な花だ。そして、彼らは彼らの言葉を話し、私に近づいてきた。もしかして、あの人の言っていた革命軍の人が来たの?なら、あの人の言ってることは本当だったってこと!?
だったら逃げなきゃ!早く屋敷に戻らないと…オルレア……いいえ、お母様の元に、彼らより早く!
そう思って駆け出した瞬間だった。横の暗がりから私は乱暴に手を引かれた。
悲鳴をあげようとした瞬間、口を手で塞がれる。
恐怖でぶるぶる震える私にその人は耳元で静かに囁いた。
「大丈夫だよ、静かに。」
それはお母様じゃない声。と言うより女性の声じゃなくて…初めて聞く低い声。
これが今まで見た事も無かった男の人の声だと言う事とはすぐに理解し、私はおそるおそる涙目になりながら顔を上げた。
すると、その男の人は袴ではなく鎧を着ていた。彼はあいつらの仲間ではないということなの?だったら、どうして?
「オルミカ姫、もう大丈夫です。我はオルレアさまの従者のティリスと申すものです。我々はオルレアさまの密命のもとあなたをお守りしたく馳せ参じました。彼らの処理は我の仲間に任せてください」
後ろの木から鎧を着た人間が数人出てきて、桜袴の人たちと交戦をし始めた。ティリスは私の手を引き、森を一直線に走った。
「ここは迷宮のように入り組んでいるわ。私、外の世界へ行ったことないもの」
「姫、大丈夫です。この森はもともとサウスサンドの旧王家が作ったものですから。私はこの森のマップを頭に入れてます」
「母はどこですか?」
「オルレアさまはあとで必ず来ます。あの人は諜報員としても優秀でしたから。このまま北に抜けて、ノースアイスの首都ベルクワに行きましょう。そこにはシーサイドへの直行便が出てます。ただ気をつけてください。ノースアイスもあなたを狙っていますから。変装して行きましょう」
「変装って…」
走りながら何処でどうしろと言うのだろうと思った瞬間ティリスはぼそぼそと何かを口走り始めた。
すると私の姿は見る見る内に変わり始めた。草色の長い髪は短くなり、走りにくかったロングスカートは動きやすいオーバーオールに。
そして大きくふっくらとしたハンチングを被ったまるで少年の様な姿となった。所謂男装と言うものだろうけど顔立ちも変わっている気がする。
「折角の愛らしい姿をその様に変えてしまいすみません。でも、少しの辛抱ですので…。」
そう言うティリスも先程までの亜麻色の柔らかな髪は黒髪に、端正なおとぎ話の王子様の様な甘い顔は冴えない平凡な男風になり、
鎧も消えて平民の様な普通の男の恰好となってしまっていた。
「この魔法は呪いの様なもので私が死ぬ事が無い限りは解けません。ですが、一つだけ。何があっても流血はしない様に。
少しでも血を流すとこの魔法は解けてしまいますので……。勿論私が…私達がお守りしますがくれぐれもご注意を。」
そんな説明を共に走りながら聞いていると遠くから声が聞こえて来た。
「おーい!無事か!?こっちだ!!」
馬車がそこにはあった。ノースアイスの商人たちだ。森を抜けたこの高原からベルクワまで連れて行ってくれるらしい。ティリスはお金を渡した。そして、私たちはベルクワに向かった。
ベルクワは雪が止まない街だ。人々は防寒着をこれでもかというくらい身にまとっている。品のある金髪藍眼。初めてこんなに多くの人を見た。初めての光景ばかりで驚くばかりだ。私の知らない世界がこんなにも広がっているのね。ノースアイスは先の戦争ので手に入れた植民地によって経済的に繁栄した豊かな国らしい。ティリスが食べたことのない食事を持ってきてくれた。暖かいスープなんだけど、まろやか。コーンスープというやつなんだって。みんな生き生きとしてる!
そして私は馬車の中で分厚い毛布に包まりながらスープを飲んでいた。…先程の逃亡劇が嘘みたいに穏やかに。
そして向かい側に腰を下ろしたティリスはゆっくりと語り始める。
温和そうな眼差しからは今の地味な顔立ちからでも何となく、紳士の様な雰囲気を滲ませていた。
「私はティリス・フォードリット。ノースアイス竜騎士団副団長です。
…今は、表向きは貴方の兄のティルとでもしておいてください。貴方は私の弟、オルミスと名乗る様に。」
偽りの関係。けれどもそれは大切な私達を守る大事な関係なのだ。私はすぐに察して力強く頷いた。
「今から向かうのは知り合いの宿です。…今日はもう残念ながら便は出ていないので…明日の早朝に出発しましょう。
これからまた少し長い旅になります。…しかし、必ずや貴方を無事シーサイド共和国へと連れて行きます。
そのためには貴方も私の指示は聞いて頂かねばならない。いいですね?オルミカ姫。」
「いえ、私はオルミスです。ところで一つ聞いていいですか?」
「なんでしょう?」
「母はサウスサンドの人なのにあなたはノースアイスの人なんですか?」
「あ……。それは……。すみません。まだ言えないんです。ただ私を信じてください」
私はティリスが本当に母の従者なのか疑わしく思ってしまった。本当に大丈夫だろうか?母は来るの?それとも母もニセモノ?
翌朝、私たちはベルクワ駅についた。ここから長いシーサイドまでの電車旅が始まる予定だった。しかし、駅では検問がされていた。なんでも緑色の頃の私を探している様子だ。
「姫、これは危険です。ノースアイスは私が関わっていることを知っているので、出血沙汰になろうと変装を暴こうとしてくるかもしれませぬ。最悪のプランですが、ノースアイスから徒歩でレムティアン王国を通りシーサイドに向かいましょう」
ノースアイスの西の端の都市ウィンドボナ。ここの国境検問所を超えたらレムティアン王国領だ。すると、そこに重厚な鎧を着た軍隊が来た。
「我々はノースアイス帝国陸軍だ。裏切り者のティリスと"天使の寵児"オルミカを捕らえよ!」
ティリスと私はなぜバレたのかを考えた。しかし、原因はわからない。考えても無駄だろうと思ったのだろうか?ティリスは検問所に向かって直進し、強引に抜けようとした。ノースアイス軍の弓矢が飛んでくる。ティリスは私をかばいながらただ突き進んだ。
ティリスは傷だらけになり、変装も解けてしまったが、私を守り抜けた。レムティアン王国領に入ると、彼らは手を出せないらしい。
「レムティアンはいま無法地帯なんです。レムティアン王国はウェストスターの侵略を受けている中で、ノースアイスはウェストスターとの協定で中立を保つことになっているんです」
私たちは一番近い町であるバグシフォンについた。ゴミが散乱したスラム街のようであった。なんでもウェストスターの2年に渡る侵略のせいで国家機構である警察権力はもう機能していないらしい。犯罪は日常茶飯事だから気をつけなくてはいけない。
私はティリスを急いで保健所に連れて行った。優しそうだがやつれたおじさんが手当てしてくれた。あぁ優しい人もいるんだなーって思ったのもつかの間、請求書を渡された。そこには見たことない法外な料金が書かれていた。ティリスから騒いではいけないと言われていたので、仕方なく身につけている装飾品や武器と有り金全部を渡した。今夜泊まる宿がなくなった。
私は変装も解けて緑色の髪のまま街中を歩き回った。行くあてもないけど夜風に当たりに。そこに男たちの集団が現れた。もしかして、革命軍やノースアイスの追っ手??
「おっ、女だぞ。連れていけ。みたところ胸もあるようだ」
私は抵抗しようとしたけど、ハンカチで口を塞がれ眠らされてしまった。襲われ…る…。
私が目覚めるとふかふかのベッドの上にいた。え?と戸惑いながら横を見ると、容姿の整った赤髪の青年がいた。
「大丈夫?怪我はない?」
「あ、は…い…。あの男たちは?」
「君が男たちに連れ去られそうになっているのを見たから男たちを追って成敗しましたので、もうご安心ください。夜遊びはあまりなさらないように」
「あの、あなたは?」
「あぁ、僕はまぁ隠すことでもないな、うん。このレムティアン王国の第3王子のカエサリヌスだ。ご存知の通りこの国はもう崩壊直前だ。だけど僕は国民を守る義務がある。だから、警察権力の腐敗した地域は僕が率先して警備してるんだ」
「あ!ティリスのところに行かなくちゃ!ここってどこ?」
「ここかい?ここはバグシフォンの郊外の古城だよ。昔栄えた黄金の国の宮殿だよ」
「バグシフォンの診療所に行きたいんだけど」
「バグシフォンは君には危険すぎる。もしティリスという人物をここに連れて来たいなら、僕に任せな」
そう言うと、カエサリヌスは部下に命令した。
カエサリヌスは人望があるようだ。優しく、男らしい。そして、行動が早い。レムティアンは彼が継げば、こんな荒廃することはなかったんじゃないかな、と思わせるほどだ。
数時間後、ティリスが連れてこられた。ティリスの容態は思ったより悪いようだった。
「姫、すみません。私はシーサイドに行けそうにありません」
「そんな…それじゃあ私はこれからどうすればいいの…」
「ご安心ください姫、今すぐバグシフォンを抜けた先にある村に向かってください」
「そこに私の仲間が村に辿り着くのを待っています。」
「……もういや」
「もういやよ!」
「……」
「なんでこんなことになってしまったの…」
「私はただ、静かに森で暮らしていただけなのに…なんでこんなことばかりおきるの!」
「もう…もうこんな世界…消えて無くなればいい!」
突然オルミカの体から黒いオーラが溢れだしてきた。
ティリスは驚愕して、動き出せずにいた。
「オルレアさまが言っておられたオルミカの隠された力とはこのことなのか……。油断していると人間の英気を全て奪ってしまうようなこの力。わずか数分で東秦皇国を無に帰したのは噂ではなかったのか……」
しかし、カエサリヌスは違った。素早く剣を持ち、オルミカの元へ向かった。
「やめろ、オルミカ!僕はレムティアン王国を守らなければならない。僕はそれを見たことはないけれども、それをここで発動することは僕が死んでも食い止める」
だが、オルミカの力"ゼロ"の前では全てが無意味だった。
"ゼロ"とは万物を元あった場所に還す大地の恵みだ。しかし、オルミカのように保有者が未熟だったならば、それは制御できなくなり、見境なく無に帰してしまうのだ。保有者の精神的成長によって、この能力は善にも悪にもなる。

歯止めのきかなくなった"ゼロ"はバグシフォンや周辺都市を瞬く間に飲み込んでしまった。そこに残ったのは砂漠と一人の少女だけであった。
翌日、世界中に号外が配られた。レムティアン侵略戦争はウェストスターの勝利であった、と。オルミカの能力のことは一切触れられず、レムティアンの主要都市であったバグシフォンを壊滅させたのはウェストスターの新兵器だったと報道された。レムティアンはウェストスターの管理のもと民主化に向かうとされたが、もはやレムティアンの国民には絶望しかなかった。カエサリヌスは生死不明、ティリスのつけていた宝石は岩石の割れ目に刺さっていたらしい。オルミカの捜索はウェストスター・ノースアイスが極秘裏に進めているが、まだ見つかっていないという。
ーーー2年後ベルクワ
光の賢女ヴェリーナはコーンスープを緑色の髪をした少女に渡した。ノースアイス帝国の首都ベルクワの隠れ路地。ヴェリーナはここで何百年間暮らしてきた。ヴェリーナの容姿は二十歳そこらの女性となんら変わらない。少女はまだあどけないが、覚悟を持った目をしていた。まるで自分の罪を一生背負っていくような。
そう、少女はオルミカであった。

ベルクワの賢女のもとに身を隠していたのだ。あの昔住んでいたおばあちゃんとの思い出の森はノースアイスの捜索作戦の中で焼き払われて跡形も無くなった。
オルミカが森を去り、バグシフォンを滅ぼしてから2年で世界はガラリと変わってしまった。サウスサンド公国はかつての栄光はなく、南からやってきた遊牧民族ストラスに包囲されて属国となった。ストラスの族長イリアス=ハンはノースアイス帝国と激突したが、ノースアイスはフィルスグラードの戦いで守り抜き、均衡状態が大陸中部では続いている。東秦皇国では未だノースアイスからの独立運動が続いており、革命軍はテロ活動を行なっている。ウェストスターはレムティアンを併合して、カエサリヌスの親族である王家は消滅した。世界は変わった。しかし、依然として平和には程遠かった。
ヴェリーナのもとオルミカは徐々に"ゼロ"を制御していった。もう二度と大切な人を悲しませないように。もうあの頃の暮らしには決して戻れない。今平穏に暮らせているだけで、いつ日常がまた崩れるかわからない。若葉ではダメ。成長して新緑になる季節だ。
「もう行くのですか?」
「はい、ヴェリーナ様」
私はこれから、この力を使い各地で起こっている戦争を止める旅に出る。
これが私に唯一出来る、償いだと思うからだ。
「ではオルミカ、貴方には新しい名を授けます。」
「ルミナス…ルミナス・ナテュール」
「そう名乗りなさい。」
「はい…ヴェリーナ様」
「それと、これを持っていきなさい。」
「これは…いいのですか!これは大切な物なのでは…」
「いいえ、これは貴方に持っていてほしいのです。」
「これは必ず貴方を守ってくれるでしょう。」
「分かりました…」
「ヴェリーナ様…この2年間ありがとうございました!」
「ずっと…側にいてくださってありがとうございました…」
「さぁ…もう行きなさい…」
「はい…いってきます。」
こうして私は別れを告げ旅に出た。
私ルミナスはまず旧バグシフォンを訪れた。そこには当時のままの荒れ地だった。
「2年ぶりね。前来たときとは景色が変わってしまったわ……」
人類の文明によって作られた鉄のカケラなども全くない。ただそこにあるのは虚無感だけだった。私はふと岩石に目をやった。そこにはキラリと光る宝石があった。私には見覚えのあるものだった。
「きっとティリスのよね」
なぜこれだけ残ったのかわからないが、私は大切にハンカチで包んでリュックに入れた。
私は近くの町ダブズリーを訪れた。レムティアンがウェストスターに併合されたあと、ウェストスターがバグシフォンに代わり、建設した都市だ。ウェストスターの東の玄関となっている。私は号外が配られているのを見た。私はそこに行き受け取った。そこには、ストラスの西征軍がウェストスターを攻めるということが書かれていた。ストラスはノースアイスへの進軍をやめ、ターゲットを西に変えてきたようだ。ダブズリーの人はわなわなしていた。それもそうだ。2年前のウェストスターからの侵略の次はストラスによる侵略だ。私に何かできるだろうか?
一週間後、ストラスの西征軍がダブズリー郊外までやってきた。ウェストスターはここで西征軍を食い止めるつもりだ。私は"ゼロ"を使って必ずこの戦いを止めてみせる!"ゼロ"の別の使い方をヴェリーナ様と一緒に見つけたの!
ダブズリー郊外の荒れ地で両軍は退治していた。ストラスは騎馬に鉄で完全武装して今にも突っ込もうとしていた。対して、ウェストスター軍は火薬を並べていつ砲撃してもいいようにしている。一触即発の状況だ。

私は馬に乗り急いでそこまで行った。そして、両軍の中央に立った。
ウェストスターの軍人の人が声をあげた。
「お前は誰だ!?ここは戦場だ。死ぬぞ」
「私はルミナス。昔はオルミカって呼ばれてたわ。あなたたちが血眼になって捜索していたでしょ?"ゼロ"のホルダーよ」
「ま、まさ…か…。なぜ、ここにいる?」
私は何も言わず、手をかざした。前までの禍々しいものではない。全てを包み込むような優しさのオーラを。西征軍はゆっくりと戦場を離れていった。そして、ウェストスターも武装を解除し始めた。
「何が起きているんだ!?」
「あなたたちは私の"ゼロ"を兵器として使いたかったようだけど、私はこの使い方を答えとして出すわ。"ゼロ"は特定の要素を無に還せるの。あなたたち両軍の'戦意'を無に還したわ。もうあなたたちに戦意はないはずよ…」
全てを言い終わらないうちに私は倒れた。まだこの力は私には強すぎたのだ。
私が起きると鉄格子で拘束されていた。厳重に絶対抜け出せないように。軍服の人がやってきた。私をどこかへ連れて行くようだ。
そこは大聖堂のような場所だった。男がやって来た。
「これより異端審議会を始める。このルミナスと名乗る人物は我が軍に対して不思議な力を使い妨害した。我々に味方するのならまだしも、敵対するようならば刑罰を与えねばならない」
審議会とは名ばかりでもう刑罰は決まっていたようだ。私は焚刑に処されるようだ。いやだ、助けて……。

そのとき、ヴェリーナ様からいただいた指輪が光っているのが見えた。そういえば、「これはあなたを助けるもの」ってヴェリーナ様は言っていたわね。
突然、爆音が響いた。男たちは慄いている。
「何事だ!?」
「敵襲です。おそらく東秦のテロリストどもです」
たくさんの袴を纏った人が入ってきた。それを指揮していたのは!
「お母様!」
私は声をあげた。
「どうして、お母様がこのようなことを!?」
「話はあとよ。ここを抜けるわ」
私たちは大聖堂から抜けた。ここはウェストスターの首都ワシントンティノープルだったようだ。東秦の人たちに連れられて、私は郊外の屋敷まで走った。
「どういうことなの!?お母様!」
「あなたたち、席を外してもらえる?オルミカ、私の話を聞いて」
私オルレアは2年前、あなたとはぐれてしまってから、東秦の革命軍に拘束されてしまったの。革命軍の一人、坂田龍馬と話すことにしたわ。
「あなた、オルレアさまがサウスサンドの元王族だということは存じております。あなた様は我々のことをテロリスト集団だとお思いでしょう。それも無理はありません。ただ信じてください。我々はあなた方サウスサンドには感謝しているのです。植民地になった東秦を未だに経済支援してくれている恩は忘れていません」
「でもあなたたちは私の娘オルミカの身柄を狙っているんですよね?」
「それはそうです。一つは我々の独立が目的です。そして、もう一つはあなた様もよく知る方からの依頼です。その方は我々の活動をさまざまな方面で支援してくださっているのです」
「その方は誰ですか?」
「決して悪いようにはしません。一緒についてきてください」
私は彼らにノースアイス帝国の首都ベルクワに近い都市ソティに連れてこられた。ここが彼らのノースアイスでの活動拠点のようだった。そこの隠れ家らしき場所に入ると着物を重ね着した人たちとずっと会いたかったあの人がいたの。

夫のウィンダムよ。
東秦の革命軍を支援していたのは夫のウィンダムだったの。先の大戦のあと、ウィンダムと離れ離れになってしまい、行方が分からなかったわ。でもこんなところで会うなんて。
「会いたかったよ、オルレア」
「どうしてこんなところに?」
「ノースアイスが皇帝フィルスの専制体制になってから旧王族の俺たちを抹殺しようとしてきたんだ。だから、なんとか気づかれないように潜伏していたんだ。お金は幸い宮廷にあった高価なものを売って手に入れたものがあるから大丈夫なんだけどね」
「東秦の人とはどういう関係?」
「いや、彼らには苦しい思いをさせているな、と。あの戦いは俺たちのせいで起きてしまったものだ。そして、東秦はノースアイスに搾取されている。せめてもの罪滅ぼしで彼らの独立を支援してやりたいんだ。偽善かも知れないけど、俺は東秦の独立によってフィルスの専制体制を破壊したい。そして、それにはオルミカの力が必要なんだ」
「でもあの子は…」
「わかっている。もしかしたら、俺は最低の親なのかも知れない。だけど、彼らに平穏を与えるにはそれしかないんだ」
「でも娘はシーサイドに行く予定よ」
「あぁ、だから連れ戻さなければならない。彼女には重い十字架を背負わすこととなる。だから、親としてはこの件が終わったら3人でまた森で暮らそう。あの子が拒否しなければね」
そして、ウィンダムは通じていたノースアイスの関所の者にオルミカの足止めをお願いした。しかし、ティリスの強行突破によりその作戦は崩れたわ。

ティリスはウィンダムの部下だったんだけど、戦争が終わってからは私がウィンダムの捜索を依頼してたわ。ティリスはウィンダムの意図を汲むのが昔はうまかったみたいだけど、離れた年月には敵わないわね。
数日が過ぎ、バグシフォン消滅のニュースが流れたわ。世間はウェストスターの新兵器だと噂したけど、私はすぐにあなたの力によるものだと分かったわ。そこから、ずっとあなたのことを探してた。そして、ヴェリーナのもとにいることが分かったの。

ヴェリーナのもとに行き、オルミカを引き取ってもいいかお願いしたわ。しかし、ヴェリーナはあなたの力がまだ不完全だからと拒んだわ。
「もしオルミカが自分の力をコントロールして、ひとり立ちできるようになったら、そこからはあの子に考えさせましょう」
「どれくらいの期間でしょうか?」
「それはわからない。しかし、あの子が困ったら駆けつけてあげてください。この指輪はあの子の居場所を表示するものです。同じものをあの子にも渡しておきます。あの子がピンチに陥ると光って知らせてくれます」

そして、さっきこの指輪が光ったの。だから、助けに来たわ。
---…カシャン!
「そうだったの…。私はみんなに見守られていたのね」
「ねぇ、東秦の人たちを助けてあげてくれない?」
「……。うん、私は平和を実現するって決めたの!そして、今度は家族で森で暮らしたいわ!」
「オルミ…。そうね、今はルミナスだったわね」
バッゴーン!

突如大きな音がした。
「オルレアさま、ウェストスターの襲撃です。我々が囮になります。急いで、東秦へお逃げください」
東秦の人たちが足止めしてる間に私たちはここを離れた。
「ルミナス、あそこの海岸に船があるでしょ?あそこに坂田さんが乗ってるわ。あれで東秦へ行くわ!」
船の中で私は東秦の政治状況を坂田さんから教えてもらったわ。

東秦皇国はノースアイスの植民地となったあと、ノースアイスの傀儡として冬里幕府というものが建てられた。そして、彼らはノースアイスの指示のもと、生糸などをウェストスターなどに輸出している。その利益は全てノースアイスのものだった。それに我慢できなかった、革命軍は旧支配者だったアマテラヒコ大王のもとに政権を戻し、ノースアイスから自立しようと動き出したのだ。
私たちは東秦の旧都である平温に着いた。ここに革命軍の本拠地が置いてあるらしい。冬里幕府があるのは新都である桜京だ。彼らはXデーに向けて武器や情報を入念に仕入れている。冬里幕府は支配権確立のため、ノースアイスより仕入れた武器を背景に重税と圧政を敷いている。革命軍はウィンダムとサウスサンド公国が支援していたが、ストラスによるサウスサンド包囲によりそのルートは遮断されてしまった。
私、ルミナスはひとまず平温から離れた場所にある山雅という古都に母と一緒に訪れた。冬里幕府は革命軍を監視しているようなので、一緒にいると狙われてしまうからのようだ。私は東秦への観光客を装っている。案内役兼護衛として西条隆盛さんという人がついてきている。革命は父ウィンダムの反フィルス蜂起と同時に行う予定らしい。今はその連絡待ちだ。私たちは観光を楽しむことにした。
数ヶ月後のある日、衝撃的な知らせが届いた。坂田さんが暗殺されたというものだ。あまりにも突然だった。平温の取り締まりをする新歓組という組織に殺されたという噂だ。革命軍を束ねていた人の死は影響が強すぎる。平温の本拠地がいつバレてもおかしくない。父を待ってる暇もない。ルミナスと革命軍はすぐに動き出すことにした。
ウィンダムに革命決行の知らせを送り、ルミナスと西条は桜京に赴いた。そして、西条は冬里幕府の重臣である勝山舟と会談した。桜京総攻撃をするつもりだが、もし降伏するならやめよう、と。交渉は締結直前まで行ったが、突然、将軍冬里義信が出てきて、撤回してしまった。そして、逆にノースアイスとともに平温総攻撃を仕掛けられることになってしまった。
平温と桜京の中間地点である那古屋で両軍は対峙した。ルミナスは急いで戦場に向かったが、すでに戦いは始まっていた。3日ほどしたら、おそらくノースアイス軍もやって来る。父よ!行動を起こしてくれ!そして、革命軍よ!耐えてくれ!
翌日、ウィンダム蜂起の知らせが届いた。これにより、ノースアイスは兵力を東秦に割くことはできなくなった。士気の上がった革命軍の勢いは凄まじく、那古屋の戦い、続く会盟の戦いを制し、桜京前まで進軍した。西条は再び会談を設け、桜京無血開城に成功することができた。しかし、将軍義信は納得できず、箱座で最後の戦いを挑むこととなる。
私は力を使うことにした。このままでは将軍義信は玉砕まで戦うと言いそうだからだ。無駄な犠牲は避けなければならない。"ゼロ"により、みるみるうちに戦意を喪失していく冬里軍。私は、彼らへの寛大な処分を革命軍にお願いし、軍は受理した。これにより、新生東秦皇国の建国が宣言された。
ーーー時を同じくしてベルクワ
ウィンダムの蜂起により、フィルス政府との衝突が決定的となった。フィルスの専制に不満を持っていた諸都市も挙兵した。
ウィンダムは革命の過程でこう宣言した。
「富を国家に統合して、再分配させる。富の独占を許さない緩やかな社会主義連邦の形成をしよう」
賛同する諸都市は増えていき、ついにベルクワを陥落させた。フィルスはウェストスターに亡命し、ノースアイス帝政の解体が宣言された。
ノースアイス帝国に代わり、スノウアイス社会主義連邦が宣言されて、数日後、ウェストスターが進軍してきた。ウィンダムは臨時議長として国を纏め、ウェストスターによる対スノウアイス干渉戦争を戦わなければならなくなった。
ルミナスとオルレアはその知らせを聞いて、東秦を離れ、ストラスに向かった。ストラスの族長であるイリアス=ハンにスノウアイスを支援するように頼みに来たのだ。東秦とスノウアイスの同時革命により、ウェストスターに対抗できる大国はストラス帝国しかなかった。イリアス=ハンは以前のルミナスの"ゼロ"の力に感動していた。
「あなたは戦いしか知らぬ我が民族に平和な世界を覚えさせてくれた。そのご恩に報いたい。必ず、スノウアイスにも平和な時代を訪れさせよう」
ストラス軍がウェストスター軍と戦ってくれている間、私たちはウェストスターの都ワシントンティノープルに向かった。"ゼロ"を使い、必ず大統領のランドヴェルトに戦争をやめさせねばならない。
ワシントンティノープルのブラックハウスでランドヴェルトは会ってくれた。
「あなたが天使の寵児ルミナスか。我が国の異端審議会を脱走してまた戻って来られるとはたいそう肝の座ったお嬢さんなんですね」
「皮肉はそこそこに本題に移りましょう。スノウアイスへの軍を撤退させてもらえませんか。納得いかないようなら、あなたの戦意を私の力で削がなければなりません」
「ハハハ。ズバリと言うね。君は我が国の信条を知って言っているのかな?」
「自由・博愛ですよね?」
「そうだ。自由がなければ国は発展しない。だが、見てみろ。ウィンダムは平等を追求しようとしている。私は平等とは自由の敵だと思っている。国民を高騰させるのは自由だ。そして、自由競争の末に転がり落ちるのは自然淘汰だ。平等は怠慢だ。平等は最初こそ盛り上がるが、最後にはもはや自分と相手の差にしか目がいかなくなり、損をしているならもうやめようとなってしまう。わかるか?彼らの革命が我が国にまで波及してはならんのだよ」
たしかに私は平和しか見ていなかった。国を司るトップはお互いこんな風にイデオロギーのもと対立していたのね。これを私は簡単に力を使ってねじ伏せていいんだろうか?それは私が最も忌み嫌う暴力なんでは?
「分ったなら、去ってくれ。世界はそれでも進んでいくんだ。時に失敗して、時に後退して、試行錯誤しながら。だから、スノウアイスの成立も必然だったと思ってるよ。そして、その存在がこれからも必要ならば、彼らはきっと我が軍を倒してくれるだろう。君が出る幕ではない。人間は充分強いんだ」
私と母とともにウェストスターを去った。ウェストスターはウェストスターの考えがあってのことだったんだ。それもそうね。あとは時代に任せよう。もう森へ帰ろうか。
私は東秦皇国にある不思山にある森を提供された。そこで、母と二人暮らしている。森へ篭って3年になるかな。生活に必要な物資は東秦の人たちが届けてくれるし、食べ物は昔みたいに自給自足。文句のない生活。そして、今日は父が私たちの元へ帰ってくるの。
先月、長かった対スノウアイス干渉戦争は終わったわ。ストラス軍の援助によって、泥沼化していた戦争はウェストスターの政権交代により、新大統領の指示のもと撤退の方向で片付いたわ。こうして、真にスノウアイス社会主義連邦の成立が認められたわ。父ウィンダムは議長の座を亡命していたギルードに渡し、引退したの。
世界はこの3年でまた変わっていったわ。ストラスはサウスサンドと正式に合併してストラス=サウスサンド連邦が成立した。東秦皇国は類稀なる成長を遂げ、世界の工場としてウェストスターを上回る経済大国になろうとしている。レムティアンはウェストスターの度重なる赤字解消のため、自治を認められたわ。そして、もう一つ世界は平和を目指すため、ある組織を設立したわ。
国際連協という組織だ。
本部はシーサイド共和国に置かれた。人間はトライアンドエラーを繰り返している。今日もまた。
父が帰って来た!私は母とともに出迎えた。
「久しぶり!家族3人でやっと暮らせるんだな。俺はルミナスに辛い思いをさせてしまっていた。でも、ありがとう!」
家族の笑顔。私が取り戻したかったものだ。でも私はまだ知らなかった。私はこの力を完全には制御していなかったということを。
私は自分の中に生じた違和感に抗えなくなっていた。今までは目的の達成のためただ誤魔化していただけに過ぎなかった。しかし、もう誤魔化せる時期は過ぎた。
「あ」
「あ…ああ…」
「どうしたんだ、ルミナス?」
「にげ…て」
「お母さんと一緒に…早く…私から」
「ルミナス!いったいどうしたんだ!」
「早く…逃げて!!!」
父ウィンダムは母オルレアと一緒にその場から離れようとしたが、それは遅かった。
「ああああああああ!!!!!」
突如、ルミナスの体から膨大なゼロの力が溢れ出てしまった。
***

東に位置するかつての強国「東秦」にはすっかり空いてしまった穴がある。そこには降ってきた水も生えてこようとする植物もいつの間にか消えてしまう。まるで何もなかったかのように。昔、世界を飛び回った少女と英雄であった両親がそこで暮らしていたという話がおとぎ話のように伝えられている。
これは語り部として平曲を弾き語りする少女たちが今なお独り言として伝承しているお話。
fin.
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ごめんなさい...もう100回書き込まれちゃったんだ